News Release

双極性障害患者神経細胞におけるDNAメチル化変化とその特性を解明

Peer-Reviewed Publication

Kumamoto University

Hypomethylation in transcriptional regulatory regions and hypermethylation of genes important for neural function

image: <p>(Left) The number of hypermethylated DNA regions in both neuronal and non-neuronal cells is reduced in the bipolar patient group (BD) compared to the healthy group (CT). </p> <p>(Right) Methylation status of the BDNF (brain-derived neurotrophic factor) receptor gene (NTRK2), which is important for mental and neurological functions. The upper panel shows the hypermethylated region in patients, and the lower panel shows the DNA methylation status in patients and healthy controls. </p> view more 

Credit: Professor Kazuya Iwamoto

熊本大学の研究者グループは、双極性障害患者前頭葉における遺伝子転写制御領域のDNAメチル化状態を明らかにしました。その結果、患者では多くの遺伝子が低メチル化状態にある一方、精神・神経機能に重要な遺伝子は高メチル化されていることを明らかにしました。DNAメチル化状態に変化のあった領域は、双極性障害との遺伝学的関連が報告されているゲノム領域に有意に集積していました。本成果により、双極性障害の病態に関する理解が進み、エピジェネティックな状態を標的とした治療薬の開発が期待されます。

双極性障害(躁うつ病)は、人口の約1%が罹患し長期間の治療が必要とされる精神疾患です。疫学研究などから、発症には遺伝と環境要因の複雑な相互作用が関係していると考えられています。一方、環境要因によりゲノム中のDNAメチル化状態が変動し、遺伝子の働きが変化する現象が「エピジェネティクス」として知られており、精神疾患を含む様々な疾患の病態に深く関与すると考えられています。DNAのメチル化は主に遺伝子の発現を抑制する方向に働きます。

これまでの研究では、末梢血や唾液試料を用いたDNAメチル化解析が行われており、DNAメチル化が変化した遺伝子の同定やバイオマーカーとしての利用が進められています。しかしながら精神疾患は脳神経系の疾患であることから、脳組織を用いた研究が特に重要であると考えられます。しかし脳組織は、試料の希少性に加え、神経細胞やグリア細胞など様々な細胞種が混在しており、組織に含まれる細胞種の比率の違いの影響を受けるなど、正確な解析は困難でした。

米国のスタンレー財団は精神疾患の基礎研究をサポートする米国の非営利団体で、活動の一環として患者から提供された死後脳組織を集積し、研究目的として無償配布を行っています( https://www.stanleyresearch.org/)。熊本大学を中心とした研究グループは、米国スタンレー財団より提供を受けた多数例の死後脳試料を用い、神経細胞を選り分ける神経細胞核単離を行ったのち、網羅的なDNAメチル化解析を行いました。

双極性障害患者34例、健常者35例について、前頭葉試料から神経細胞核マーカーを利用し、神経細胞核と非神経細胞核に分画後、それぞれから抽出したゲノムDNAを用いて遺伝子転写制御領域のDNAメチル化状態をアレイ法により調べました。その結果、神経細胞、非神経細胞共に健常者と比べて、双極性障害患者では多くの遺伝子が低メチル化状態にあることを見出しました。また一方で、精神・神経機能に重要な遺伝子では、神経細胞において高メチル化状態にあることを明らかにしました。

次に、双極性障害の治療薬である気分安定薬の影響を調べるため、有効血中濃度域の気分安定薬(リチウム、バルプロ酸、カルバマゼピン)存在下でヒト神経系細胞株の培養を行い、DNAメチル化状態を測定したところ、双極性障害患者でDNAメチル化状態が変化した領域の約30%と重複が認められました。DNAメチル化変化の方向は死後脳での変化方向と逆方向を示すものが多く、治療効果を反映しているものと考えられました。また、DNAメチル化変化に関連する10種の遺伝子の発現量を測定したところ、DNAメチル化酵素であるDNMT3B遺伝子が双極性障害患者で上昇しており、神経細胞特異的なDNAメチル化変化と関連している可能性が考えられました。

最後に、ゲノムワイド関連解析(GWAS)で同定された精神疾患に関連するゲノム領域とDNAメチル化状態が変化した領域を比較したところ、双極性障害のGWASで報告されたゲノム領域に有意な集積が認められ、うつ病や統合失調症で報告されたゲノム領域には集積は認められませんでした。

研究を主導した岩本教授は次のようにコメントしています。 「神経細胞に特異的なDNAメチル化変化とその特徴を明らかにしたことで、双極性障害の病態の理解が大きく進むと期待されます。また、エピジェネティックな状態を標的とした治療薬の開発が期待されます。」

本研究成果は、米国化学会の科学誌「Molecular Psychiatry」に令和3年4月20日(日本時間)に掲載されました。

###

Source: Bundo, M., Ueda, J., Nakachi, Y., Kasai, K., Kato, T., & Iwamoto, K. (2021). Decreased DNA methylation at promoters and gene-specific neuronal hypermethylation in the prefrontal cortex of patients with bipolar disorder. Molecular Psychiatry. doi:10.1038/s41380-021-01079-0


Disclaimer: AAAS and EurekAlert! are not responsible for the accuracy of news releases posted to EurekAlert! by contributing institutions or for the use of any information through the EurekAlert system.