保存状態の良いネアンデルタール人の子供の骨を新たに分析した結果、ヒト科のこの絶滅種の成長パターンの解明に重要な手掛かりが得られた。ネアンデルタール人の全般的な成長速度は現生人類と非常によく似ていると考えられているが、今回の結果により、ネアンデルタール人は現生人類と比較して7歳の時点で脳の成長がかなり残っていることが判明した。私たちの親戚であるネアンデルタール人についての知識は、私たち自身の生態についての重要な手掛かりでもあり得る。とりわけ興味深いのは脳の大きさの違いである。ネアンデルタール人の脳の方が大きいことについては、生後初期の成長速度が現生人類より速いためと説明している研究もあれば、そうではなくて成長期間が長いためとしている研究もある。Antonio Rosasらは今回、4万9千年前のスペインのエルシドロン洞窟で発掘されたネアンデルタール人の子供の骨について説明している。エルシドロンJ1と呼ばれるこの化石には並外れて保存状態の良い乳歯と永久歯が混ざっている。それゆえにこれは歯に残っている日常の漸進的な形跡から死亡年齢を推定する絶好の機会で、Rosasらはこの子供の死亡年齢を7.69歳と推定した。エルシドロンJ1の分析により、この7歳のネアンデルタール人は椎骨の一部がまだ連結していないことが判明した。しかし現生人類の場合これと同じ椎骨はおおよそ4~6歳で連結していることが多い。興味深いことに死亡時のエルシドロンJ1の脳の大きさは平均的なネアンデルタール人の成人の約87.5%であった。一方、現生人類の同じ年齢の子供の脳は平均して成人の脳の重さの95%である。脊椎の成熟や脳の成長期間の長さという独特のパターンはネアンデルタール人の幅広な体形や生理を反映しているのであって、ネアンデルタール人の全般な成長速度の基本的な相違ではないと考えられるとRosasらは述べている。
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