News Release

原子の単層シートの変形を利用して分子の特異的検出に成功

スマートフォンを利用した病気診断技術に向けて

Peer-Reviewed Publication

Toyohashi University of Technology (TUT)

架橋グラフェン上への分子吸着による膜変形と干渉&#33394

image: 架橋グラフェン上への分子吸着による膜変形と干渉色の変化 view more 

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<概要>

豊橋技術科学大学電気・電子情報工学系の髙橋一浩准教授、喜種慎氏(博士前期課程)らは、炭素原子1個分の薄さでできたシート素材、グラフェンを用いた検査チップを開発しました。グラフェンの単原子膜の下には1マイクロメートル以下の狭い隙間が形成されたトランポリン構造をしており、血液や尿、唾液などの体液中に含まれる病気由来のたんぱく質であるバイオマーカーをグラフェンの上で特異的に捕まえることを可能とします。グラフェンに吸着したバイオマーカーは、グラフェンをドーム状に変形させる力を発生するため、変形した量を光の干渉特性を利用して色の変化として検出することに成功しました。

開発した検査チップで、ウイルスや病気の検査を簡易かつ迅速に行えることが期待されます。

<詳細>

病気の検査を簡易かつ迅速に行う計測装置は、正確な診断や治療効果の検証、再発や転移の調査をするために極めて重要です。ごく微量の血液や尿などの体液から病気の検査が行えるようになれば、簡単・迅速・安価に体調管理が可能になります。半導体マイクロマシン技術を用いて形成したフレキシブルに変形する薄膜の上に、バイオマーカーを特異的につかまえて、病気の有無を判断する検査技術が研究されています。研究グループでは、マーカー分子が吸着したときに発生する膜変形を色の変化として検出するセンサ技術を開発しています。このセンサ素子はバイオマーカーを吸着する膜を薄くするほど感度を向上することができるため、原子一層で構成されているグラフェンと呼ばれる膜厚1ナノメートル以下の材料を用いることで、センサの感度を1000倍以上に向上することが期待されます。

しかしながら、グラフェンをブリッジ状に架橋した従来の報告では、分子が架橋グラフェン上に物理的に吸着した際の変化を測定しており、測定対象の分子を特異的に検出することが困難でした。分子を認識して特異的に結合する抗体の修飾は一般的に溶液中で行うため、この溶液処理中にグラフェンの架橋構造が破壊されることが原因と考えられています。

 そこで、研究チームでは、溶液処理に耐えうるグラフェンの架橋構造として、グラフェンシートで基板の凹凸構造を覆ったトランポリン構造を作製し、グラフェン上に抗体分子の修飾を行うことができました。抗体分子でグラフェン表面を機能化することによって分子を認識する能力が与えられ、バイオマーカーを特異的に検出可能な超高感度バイオセンサが実現できました。また、グラフェン表面に結合したバイオマーカーを検出する技術は、研究チーム独自の光検出技術が用いられています。架橋グラフェンと半導体基板の間に作られる1マイクロメートル以下の隙間では、光の干渉作用により隙間の距離によって色が変化します。この効果を利用して、検体溶液中での架橋グラフェンへの分子が吸着する様子を色変化から明らかにしました。今回開発したバイオセンシング技術により、単位面積当たりの感度が従来センサと比較して2000倍に向上すると期待されます。

<今後の展望>

研究チームは、血液検査のほかにも、においや化学物質を検出する化学センサを研究中で、IoT社会に貢献する新しい小型センサ装置に適用可能であると考えています。グラフェン表面に修飾するプローブ分子を付け替えることによって、様々なバイオマーカーを検出するとともにウイルスの検出などへの応用が可能になります。

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<論文情報>

Shin Kidane, Hayato Ishida, Kazuaki Sawada, Kazuhiro Takahashi, A suspended graphene-based optical interferometric surface stress sensor for selective biomolecular detection, Nanoscale Advances, 2, 1431-1436 (2020) DOI: 10.1039/C9NA00788A

本研究は、文部科学省科学研究費(基盤研究(B))、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)さきがけ 素材・デバイス・システム融合による革新的ナノエレクトロニクスの創成(JPMJPR1526)及び 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO) 未踏チャレンジ2050の助成によって実施されました。


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