研究の背景
ヒトの遺伝情報は、DNA(デオキシリボ核酸)によって親から子に伝わります。一人一人の顔や性格が違うように、DNAも人によって違いが見られる部分があり、この違いを検出することで、個人を識別することができます。また、DNA情報をもとに個人間に血縁関係があるかどうかを判定するのが血縁鑑定です。ヒトは父親と母親由来のDNAを1対持っています。血縁関係が近い人達(親子、兄弟など)は、血縁関係が無い人と比較して、同じDNAを持っている割合が大きいことが分かります。この性質を利用して血縁鑑定が行われます。
ところが、現在通常行われているDNA鑑定法では、2人の間の血縁関係は親子、兄弟までしかわかりません。血縁関係がそれ以上離れてしまうと、同じDNAを持っている割合が少なくなり、血縁関係が無い人との区別がつきにくくなるからです。例えば、2011年に発生した東日本大震災では多くの方がお亡くなりになり、未だに70人以上のご遺体の身元がわからない状態になっています。DNA鑑定は身元確認に大変有力な方法とされていますが、津波の場合は身の回り品は利用できません。そのため、血縁鑑定に頼ることになりますが、この場合は親子・兄弟までしか判定できないため、孫やいとこなどのご家族のご協力をお願いすることができませんでした。私達は、研究を通じてそのような遠い血縁関係でも判断できるようになり、このような身元不明のご遺体をご遺族のもとに一刻も早くお返しできたらと考えていました。
本研究成果は7月29日(米国東部時間)、PLOS ONEに掲載されました。
研究内容
この研究では、これまでは不可能であった2人の間の遠い血縁関係(いとこ、またいとこなど)を高精度で判定できるDNA鑑定法を開発しました。DNAは綿棒で頬の内側をこすって採取するだけなので、非常に簡単です。DNAの配列上のわずかな違い(一塩基多型 : SNPs)を十数万か所検査して、2人の間でどの程度同じDNAを持っているかを調べます。そして、新しい計算方法を用いて、検査した2人が特定の血縁関係にあるかどうかをパーセントで算出します。実際に親子、兄弟など様々な血縁関係にある人達からDNA検査を行い、正しく血縁関係を判定できるか検証しました。その結果、兄弟・いとこ・またいとこなどの関係を高い精度で判定することができました。
今後の展望
今回開発した鑑定法では新鮮な頬の細胞を用いましたが、身元確認のためご遺体から採取するDNAは、長期間にわたって外環境にさらされて壊れていることが多いため、すぐに応用はできません。現在このような試料からも確実に判定できるよう研究を続けています。
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Journal
PLoS ONE