News Release

混ぜるだけでインスリンの経口投与を可能にする方法を開発

苦痛のないインスリン投与に向けて

Peer-Reviewed Publication

Kumamoto University

Hypoglycemic effect of DNP peptide synthesized from L- and D-amino acids and zinc insulin

image: <p>Left: blood glucose levels continued to decrease from 15 to 60 minutes after administration. This decrease in blood glucose levels persisted until at least 120 minutes after administration. </p> <p>Right: A decrease in blood glucose levels was observed 15 minutes after oral administration, and the hypoglycemic effect persisted until 120 minutes after administration. </p> view more 

Credit: Associate Professor Shingo Ito

熊本大学の研究者グループは、独自に見出した「小腸透過環状ペプチドDNP (DNPペプチド)」をインスリンに添加剤として用いることによって、インスリンの小腸吸収を促進させ、経口投与によりマウスの血糖値を低下させることに成功しました。また、臨床で用いられているインスリン注射剤にD体DNPペプチドを添加するだけで、インスリンの経口投与が可能であることを見出しました。本研究成果によって、DNPペプチドを用いた経口インスリンの基盤構築ができ、経口インスリン開発に大きく貢献することが期待されます。

インスリン療法は、インスリン製剤の自己注射を行うことで不足するインスリンを体外から補い、血糖コントロールを図る最も自然な糖尿病治療法です。しかし、インスリン自己注射は痛みを伴うなど、多くの糖尿病患者にとって治療を続ける上で大きな負担となっており、糖尿病患者のQOL向上のために経口インスリンの開発が強く望まれています。しかし、インスリンが発見されてから100年になりますが、経口インスリンは開発されていません。大きな理由として、インスリンが小腸から吸収されず、消化管で分解されてしまうという点があります。今回、私達はこの問題を独自に見出した小腸透過環状ペプチドである「DNPペプチド」と、亜鉛添加によって作成した「インスリン6量体」を用いて解決することを目指しました。

本研究ではDNPペプチドの消化管分解を抑制するために、D体アミノ酸を用いて環状ペプチドDNP (D体DNPペプチド)を合成しました。また、インスリンの消化管分解を抑制するために、塩化亜鉛を添加してインスリン6量体 (亜鉛インスリン6量体) を作成しました。これらを混合した溶液を、最初に腸管からの吸収を直接検討するために、腸管内に投与しました。その結果、投与後5分から門脈血中にてインスリンが検出され、投与後15分から60分にかけて血糖値が低下し、この血糖値の低下は少なくとも投与後120分まで持続しました。次に、本混合液を経口投与したところ、投与後15分から血糖値の低下が観察され、血糖降下作用は投与後120分まで持続しました。両方の投与法において、D体DNPペプチドはL体アミノ酸で合成したL体DNPペプチドよりも強い血糖降下作用を示しました。次に、糖尿病モデルマウスに本混合液を腸管内および経口投与したところ、投与後30分から血糖値の低下が観察されました。

多くのインスリン注射剤には亜鉛添加によって作成したインスリン6量体が含有されています。そのため、これまでの研究結果から、D体DNPペプチドをインスリン注射剤に添加するだけで経口インスリンが開発可能であることが考えられました。そこで、インスリン注射製剤 (HumulinR3/7) にD体DNPペプチドを添加し、マウスに経口投与したところ、実験で作成した亜鉛インスリン6量体と同様に血糖降下作用が観察されました。

したがって、既存のインスリン注射製剤にD体DNPペプチドを添加するだけで、経口インスリン開発が可能であることが示唆されました。以上の研究結果から、D体DNPペプチドとインスリン6量体を混合するだけで、インスリンの小腸吸収を改善させることが可能であることが分かりました。

研究を主導した伊藤慎悟准教授は次のようにコメントしています。

「今回の研究成果から、D体DNPペプチドを用いた経口インスリン開発の基盤構築ができました。今後、投与法の最適化によって、さらにインスリンの小腸吸収を促進させる方法を開発することで、経口インスリン創薬に貢献することが期待されます。」

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本研究成果は、「Molecular Pharmaceutics」に令和3年2月22日(日本時間)に掲載されました。

Source: Ito, S., Torii, Y., Chikamatsu, S., Harada, T., Yamaguchi, S., Ogata, S., ... Ohtsuki, S. (2021). Oral Coadministration of Zn-Insulin with d-Form Small Intestine-Permeable Cyclic Peptide Enhances Its Blood Glucose-Lowering Effect in Mice. Molecular Pharmaceutics. doi:10.1021/acs.molpharmaceut.0c01010


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