News Release

ヒトiPS 細胞からミニ多臓器(肝臓・胆管・膵臓)の作製に成功

単一臓器再生、から、多臓器一括創生へのパラダイムシフト!

Peer-Reviewed Publication

Tokyo Medical and Dental University

Engineering Multi-organs in a Dish

video: Modelling human hepato-biliary-pancreatic organogenesis from the foregut-midgut boundary. view more 

Credit: Hiroyuki Koike, Kentaro Iwasawa, Rie Ouchi, Mari Maezawa, Kirsten Giesbrecht, Norikazu Saiki, Autumn Ferguson, Masaki Kimura, Wendy L. Thompson, James M. Wells, Aaron M. Zorn, Takanori Takebe.

 東京医科歯科大学 統合研究機構 先端医歯工学創成研究部門 創生医学コンソーシアムの武部貴則教授の研究グループは、シンシナティ小児病院との共同研究で、胎内で肝・胆・膵領域が発生する過程を模倣することによって、世界に先駆けてヒトiPS 細胞から連続した複数(肝・胆・膵)の臓器を同時発生させる技術を確立しました。さらに、多臓器の形成に異常が生じる遺伝疾患を、試験管内で再現することに成功しました。この研究成果は、国際科学誌Nature に、2019 年9 月25 日午後6 時(英国時間)にオンライン版で発表されます。

【研究の背景】  

人間の体は、1個の受精卵から発生し、数百から数千種類からなる数十兆の細胞への分化を経てさまざまな臓器、ひいては、個体が形成されます。近年、それらの発生学的プロセスを試験管内で模倣することによって、ヒトiPS 細胞などの未熟な幹細胞から特定の臓器を人為的に創出する試みに注目が集まっています。しかしながら、特定の臓器のみ(単一臓器)の誘導を試みる、という従来のパラダイムでは、隣接した複数臓器間の連結が再現されません。このため目的の臓器機能が充分に発揮されない、あるいは、持続しないなどの重大な未解決課題が存在していました。例えば、肝臓に隣接する臓器である「胆管」において狭窄が生じる胆道閉鎖症などの疾病では、徐々に肝臓が傷害され、最終的に肝不全の状態に陥ることが知られています。

 そこで、本研究グループでは、再生医療の最終目標である失われた機能の完全再生のためには、臓器の設計思想の抜本的な見直し(パラダイムシフト)が必要と考えました。すなわち、周辺臓器との連続性を取り入れた複雑な多臓器創生技術の開発が急務と考えられます。今回の研究では、胎内で臓器間の連結が作り上げられるダイナミズムに着目し、それらを試験管内で人工的に再現することによって、世界に先駆けて、ヒトiPS 細胞から多臓器を一括創生するための基盤技術を確立することに成功しました。

【研究成果の概要】

 肝・胆・膵領域を構成する多臓器は、受精後8 週前後に形成される前腸と中腸とよばれる前駆組織の境界領域(バウンダリ)より発生することが知られています。そこで、本研究では、発生初期段階で生じる前腸・中腸およびその周辺細胞の細胞間相互作用に着目し、それらの再現を試みました。まず、ヒトiPS 細胞から前腸および、中腸組織を別々に誘導しました。次に、それらを連結させ、前腸-中腸境界(バウンダリ)を作成したところ、驚くべきことに、肝臓・胆管・膵臓の前駆細胞が、その境界領域より自発的に誘導されることを見い出しました。

さらに、これら肝・胆・膵前駆細胞の出現には、レチノイン酸シグナルなどの分子のやり取りを介した、複雑な細胞間相互作用が必要であることもつきとめています。さらに、得られた組織の培養方法を最適化することにより、長期間の特殊な3 次元培養により、試験管内で誘導した前駆細胞から、肝・胆・膵組織を連続性を保ったまま発生させることに成功しました。

【研究成果の意義】

 従来の単一の臓器再生という考えから脱却し、周辺組織との連関を踏まえた多臓器一括創生(システム再生)へ、と開発目標を大きく転換させることにより、肝・胆・膵組織を一括創生するための基盤技術の開発に成功しました。人間では、いままで解析することが困難であった、胎内で生じする複雑なヒト臓器形成を解析するための有効なツールとして、ヒト生物学研究の発展につながる成果です。

 さらに、臓器間の連結が機能の発現に必須となる、さまざまな臓器への水平展開(例えば、腎系統(血管—腎臓—尿管・膀胱)や肺系統(気管—肺胞—毛細血管)、中枢神経系統(脳-脊髄-末梢神経・組織)など)が期待されます。将来的に、このような「多臓器(系統)創生」という革新概念に基づく、移植手法を確立することができれば、臓器移植を待つ多くの患者救済につながる画期的な再生医療の実現に貢献するものと考えられます。

【用語の説明】

*1多能性幹細胞

体内のあらゆる組織に分化できる能力(多能性)と無限の増殖能を持つ幹細胞の総称。胚盤胞より樹立される胚性幹(ES)細胞や、体細胞に特定因子を導入することにより樹立される、ES 細胞に類似した人工多能性幹(iPS)細胞などが知られています。

*2 オルガノイド

生体内で存在する器官に類似した組織構造体のこと。近年盛んに研究が進んでいる技術領域であり、武部らも2013 年、2015 年、2017 年にさまざまな臓器のオルガノイド(ミニ臓器)が作製可能であることをNature 誌(Nature 499(7459):481-4, 2013)、Cell Stem Cell 誌(Cell Stem Cell, 16(5):556-65, 2015)、Cell Reports誌(Cell Reports 21, 2661–2670, 2017)、Cell Metabolism 誌(30(2):374-384, 2019)にそれぞれ報告しています。

*3 前腸・中腸

肝・胆・膵を含む消化器系臓器の発生は、原始腸管とよばれる単純な1 本の管から始まる。原始腸管は、胎児の頭側および尾側からの位置によって区分され、前腸、中腸および後腸の3 つの組織に分類されます。一般に、前腸からは食道・胃・肝臓・胆管・膵臓などが、中腸からは十二指腸・空腸・回腸などが形成されると考えられていますが、肝胆膵領域は、前腸と中腸の境界領域より発生することが知られています。

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