News Release

やっかいなピンホールを退治

Peer-Reviewed Publication

Okinawa Institute of Science and Technology (OIST) Graduate University

Pinholes Be Gone

image: Atomic force microscopy (AFM) images show pinholes in the spiro-OMeTAD layer prepared by spin-coating (left) versus no pinholes when prepared by vacuum evaporation (right). view more 

Credit: OIST

このニュースリリースには、英語で提供されています。

次世代型太陽電池の開発では、太陽電池の最上層に針の穴ほどの小さなピンホールができてしまうことが問題となっていました。この度、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究者たちはこのやっかいなピンホールの除去に成功しました。さらに太陽電池の顕著な長寿命化、薄型化も達成しました。本研究成果は、Scientific Reports 誌に掲載されました。

ヤビン・チー准教授率いるOISTエネルギー材料と表面科学ユニットは、このピンホールの存在について今年すでにChemistry of Materials誌に報告しています。このピンホールは「ホール輸送層」と呼ばれる太陽電池の最上層にみられ、ペロブスカイト太陽電池が早く劣化してしまう主要因であることがわかっています。ペロブスカイトは有機‐無機ハイブリッド型の人工材料です。ペロブスカイトを用いた太陽電池はシリコン系太陽電池に代わるものとして期待され、世界中で盛んに研究が行われています。

 「ペロブスカイト材料は太陽光をエネルギーに変換する活性層に用いられます。ピンホールは、このペロブスカイト材料にダメージを与える湿気や酸素の通り道となるので、非常に大きな問題です」と、本論文の筆頭著者で、OISTスタッフ・サイエンティストのミンチャー・チョン博士は指摘し、「ホール輸送層のピンホールがなければ、ペロブスカイトを保護し太陽電池の寿命を延ばすことができます」と語りました。

研究者たちは太陽電池の最上層の作製方法を工夫することで、ピンホールを除去しました。最上層の材料であるspiro-OMeTADの粉を溶かした溶液をペロブスカイト上にスピンコートするかわりに、真空チャンバー内でspiro-OMeTADの粉を昇華させ、分子の形で太陽電池上に堆積させたのです。

 この層を作製するには、まず逆さまにした太陽電池を真空チャンバーの天井に設置します。次にチャンバー内でspiro-OMeTAD を加熱していくと、昇華し気体分子となってペロブスカイトに付着し、均一な層が形成されます。まるで雪が降り積もって地面をむらなく覆っていくように、spiro-OMeTADの分子が太陽電池を覆っていくのですが、その際下方向に降るのではなく上向きに昇っていくのです。

「真空蒸着法を用いると、堆積速度の制御、ひいては層の厚みの制御をより精密に行うことができます。その結果、200ナノメートル以上あった太陽電池の厚みを70ナノメートルまで薄くすることができました」と、チョン博士は説明しました。

本手法により、層の伝導性を高める成分を添加するタイミングや方法も正確に制御できるようになりました。その結果は、またしても顕著な改善となりました。最上層のエネルギーレベルを微調整し、その下の層のエネルギーレベルと合わせることができたのです。太陽電池の各層のエネルギーレベルを揃えると、正電荷を持ち経路内を移動する「正孔」の流れがスムーズになります。

チョン博士は、「最上層とペロブスカイト層の間の差を最小限にすることが、エネルギー効率の向上につながると考えられます」と語りました。

 この蒸着法をとることにより、太陽電池の耐久性も大きく向上しました。以前は、2、3日もすると太陽光を電気に効率的に変換する能力が失われてしまいました。今では、光電変換効率を35日以上もの間高く維持することができます。

 従来のシリコン系太陽電池よりは低コストであるものの、蒸着法でペロブスカイト太陽電池を作製すると、スピンコート法よりもコストがかかります。現在、研究チームはどのように費用対効果のバランスをとるか探っており、溶液処理法を用いてコストを抑えつつピンホールの形成を避ける手法の確立を目指しています。

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