5つの新しい研究が、NASAの軌道上炭素観測衛星(OCO-2)ミッションで得られた結果を取り上げている。このミッションは、地球の炭素循環を宇宙から見て地図にする試みであり、そのデータからは、特にエルニーニョ現象の影響を理解する上で貴重な洞察が得られる。1つ目の研究はAnnmarie Elderingらによるものであり、ミッション全体と初期の成果について論じている。2014年7月に打ち上げられたOCO-2は、16日周期で地球全体の炭素分布データを絶えず集め、毎月およそ200万個の推定炭素量を得ている。その目的は、自然の陸と海の沈下が年によって、さらには季節によって異なる理由を理解することである。このデータから判明したのは、北半球の炭素循環が季節ごとに著しく変化しており、春には陸上植物が大量に炭素を取り込んでいることである。しかし冬には、植物による炭素の取り込みが最小限になる一方で、植物を構成する物質が分解・腐敗して大気中に炭素が戻る。こうした循環の結果として、ならびに(特に中国、欧州、米国南東部からの)化石燃料の燃焼による絶え間ない放出の結果として、北半球では陸上植物が取り込む炭素量が増え始める直前の毎年4月に、炭素量が最高値に達する。
Junjie Liuらによる研究は、2015年のエルニーニョ現象によって、熱帯地方における陸生植物由来の炭素の正味フラックス(正味生物圏交換量:NBE)がどのように変化したかに注目している。著者らの報告によると、熱帯地方でNBEが増加した結果、2015年には2011年よりも約2.5ギガトン多く炭素が大気中に放出されたという。アジア、アフリカ、南米の3つの熱帯大陸では、2015年も2011年に匹敵する異常なNBEの値を示したが、地域ごとに変化を起こした仕組みは異なっていた。研究者らは、熱帯アジアにおけるバイオマス燃焼による炭素放出量増加と、南米における降水量減少と、アフリカにおける気温上昇とが主要な要因であることを見いだした。著者らによると、南米で降水量が減少しアフリカで気温が上昇するという変化は、気候変動のせいで今世紀末まで続くことが予想されるという。したがって、化石燃料由来の炭素放出に対する緩衝材として熱帯地方が果たす役割は、今後小さくなるのではないかと彼らは指摘している。
また別の研究では、Abhishek Chatterjeeらが太平洋上と大西洋上で得たOCO-2のデータを用いて、エルニーニョ現象が炭素循環に影響を与える場合(この現象は広く推測されているが直接観測はされていない)の、規模とタイミングを正確に特定している。エルニーニョ・南方振動(ENSO)は太平洋において海面の温度と気圧が周期的に変動する現象であり、数年あるいは数十年にわたり気候変動を引き起こす。著者らは現場の浮標(ブイ)から得られたデータとOCO-2のデータを併用して、エルニーニョ現象の影響を受けた2015~2016年の北半球冬は、特に影響を受けなかった2014~2015年の北半球冬と比べて、海から大気への炭素フラックスがほぼ停止したことを突き止めた。著者らは、エルニーニョ現象が引き起こす炭素量の変動が、干ばつや火災といった陸上発生源と関係していることも突き止めた。
Florian Maximilian Schwandnerらによる研究は、個々の都市や火山から放出される炭素を追跡し、OCO-2の能力を実証している。16日周期で繰り返す233通りの軌道経路をもつ計画の一環として、OCO-2はロサンジェルス上空の経路を定期的に通過するので、科学者は巨大都市が放出する炭素を直接観測する機会を得られ、都市部と郊外の違いだけでなく、人為的な炭素量の季節変動も明らかにすることができた。研究者らはOCO-2を使ってヤスール火山からの炭素放出も追跡し、現地の測定値からこの機器の有効性が確かめられたと述べている。
最後の研究はYing Sunらによるものであり、OCO-2に搭載された機器が、一般的な光合成指標と植物バイオマス生産との因果関係を限定するのにいかに役立つかを論じている。太陽光誘発クロロフィル蛍光(SIF)は光合成を定量化する技術である。これまでの研究でも、SIFは総一次生産量(GPP:植物が光合成で生産するバイオマスの量)と相関性があることは示唆されてきたが、この関係を実証するのは難しかった。著者らは、数か所の検査地点においてSIFデータと陸生植物の地上・空中観測の結果とを比較し、データがGPPによく追随していることを見出した。
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