News Release

ステロイド感受性ネフローゼ症候群の新たな疾患感受性遺伝子の発見

―発症機序の解明や新たな治療法開発に期待―

Peer-Reviewed Publication

Kobe University

図1.ゲノムワイド関連解析のマンハッタンプロット

image: ステロイド感受性ネフローゼ症候群と健常人のGWASで得られた各SNPのP値(-log10)を縦軸に、染色体の位置を横軸にとった図であるが、19番染色体にゲノムワイド有意(P< 5x10-8)なシグナルを同定した。 view more 

Credit: 神戸大学

神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野の飯島一誠教授、野津寛大特命教授、山村智彦助教、長野智那特命助教、堀之内智子特命助教、及び、国立国際医療研究センターゲノム医科学プロジェクト・戸山プロジェクトの徳永勝士プロジェクト長、Xiaoyuan Jia特任研究員、星薬科大学微生物学教室の人見祐基特任講師らのグループが、ボストン小児病院腎臓内科のMatthew G. Sampson准教授、ソルボンヌ大学腎臓内科のPierre Ronco教授、デユーク大学医療センター小児科腎臓部門のRasheed Gbadegesin教授、ソウル大学小児病院小児科のHae Il Cheong教授、ウルサン医科大学生化学・分子生物学のKyuyong Song教授らとの国際共同研究で、タンパク尿を防ぐ腎糸球体スリット膜の構成タンパク質であるネフリンの遺伝子NPHS1が小児ステロイド感受性ネフローゼ症候群の疾患感受性遺伝子であることを明らかにしました。この研究成果によって、小児ネフローゼ症候群の発症機序の解明や新たな治療法の開発が期待されます。

研究成果は、2020年6月13日(現地時間)に、国際科学誌「Kidney International」にオンライン公開されました。

ポイント

  • ネフローゼ症候群 (注1)は、尿中に大量のタンパク質が漏れ出て血液中のタンパク質が極端に少なくなる、小児の慢性腎疾患で最も頻度の高い病気で、指定難病及び小児慢性特定疾病に指定されているが、その原因は明らかではない。
  • 小児ネフローゼ症候群の大半は、ステロイドに反応して寛解となるステロイド感受性ネフローゼ症候群 (注2)であり、何らかの遺伝的な素因(疾患感受性遺伝子, 注3)を持つ人に、感染症などの免疫学的な刺激が加わって発症すると考えられており、HLA-DR/DQが疾患感受性遺伝子であることが分かっているが、HLA以外の疾患感受性遺伝子は明らかではなかった。
  • 日本人小児ステロイド感受性ネフローゼ症候群患者の全ゲノム領域の一塩基多型(SNP)を健常人と比較するゲノムワイド関連解析(GWAS、注4)および多人種による国際メタ解析(注5)を行い、タンパク尿を防ぐ腎糸球体スリット膜の構成タンパク質であるネフリン(注6)の遺伝子NPHS1が疾患感受性遺伝子であることを見出した。
  • 本研究成果は、小児ネフローゼ症候群の発症機序の解明や新たな治療法の開発に貢献すると期待できる。

研究の背景

小児ネフローゼ症候群は小児の慢性腎疾患で最も頻度が高く、日本では、小児10万人あたり年間6.49人(全国で約1,000人)の小児が、この病気を発症します。尿中に大量のタンパク質が漏れ出て血液中のタンパク質が極端に少なくなる原因不明の難病で、小児慢性特定疾病及び指定難病に指定されています。小児ネフローゼ症候群の80-90%はステロイドに反応し寛解となるステロイド感受性ネフローゼ症候群ですが、その20%程度は成人期になっても再発を繰り返す難治例であり、病因・病態の解明と、その知見に基づく原因療法の開発が強く望まれています。ステロイド感受性ネフローゼ症候群の大半は多因子疾患であり、何らかの遺伝的な素因(疾患感受性遺伝子)を持つ人に、感染症などの免疫学的な刺激が加わって発症すると考えられており、飯島教授らのこれまでの研究でHLA-DR/DQが疾患感受性遺伝子であることが分かっていますが、HLA以外の疾患感受性遺伝子は明らかではありませんでした。

研究の内容

本研究グループは、全国の小児腎臓専門医の先生方の協力のもと、現在までに、約1,300例の小児ネフローゼ症候群患者のゲノムDNAを収集しています。今回の研究では、そのうちの987例の小児ステロイド感受性ネフローゼ症候群患者検体と日本人健常者コントロール検体3,206例を対象として、日本人に最適化された一塩基多型(SNP)アレイである「ジャポニカアレイ」を利用したGWASを行いました。その結果、HLA-DR/DQ領域以外に19番染色体19q13.12のNPHS1-KIRREL2領域にゲノムワイド有意な関連を示すバリアント(多型)を同定しました(図1, 2)。

この領域から重要と考えられる複数のバリアントについて、韓国人、南アジア人、アフリカ人、欧州人、ヒスパニック人、マグリブ人(北西アフリカ人)の小児ステロイド感受性ネフローゼ症候群患者(計1,063人)とそれぞれの民族に対応する健常成人(計19,729人)を対象に関連を検討したところ、韓国人、南アジア人及びアフリカ人で有意な関連を認め、日本人コホートも含めた国際メタ解析で、NPHS1の複数のバリアントが有意な関連を持つことも明らかにしました。

さらに、NPHS1の複数のバリアントと糸球体のNPHS1 mRNA発現の関連について検討したところ、これらのリスクバリアントをすべて有するハプロタイプ(注7)を持つ染色体由来のNPHS1 mRNA発現が減少することから、これらのバリアントがNPHS1 mRNAの発現調節に関与することが明らかになりました。

NPHS1は、タンパク尿を防ぐ腎糸球体スリット膜において最も重要な構成タンパク質であるネフリン(Nephrin)をコードする遺伝子であり、フィンランド型先天性ネフローゼ症候群(注8)の病因遺伝子としてもよく知られています(図3)。

本研究は、希少なメンデル遺伝病であるフィンランド型先天性ネフローゼ症候群の病因遺伝子NPHS1が、小児腎疾患で最も頻度の高い多因子疾患であるステロイド感受性ネフローゼ症候群の疾患感受性遺伝子でもあることを明らかにしたものであり、ステロイド感受性ネフローゼ症候群の発症機序における遺伝学的理解を導くための重要なマイルストーンとなるとともに、腎臓病学におけるパラダイムシフトとなる研究です。

この研究成果によって、小児ネフローゼ症候群の発症機序の解明やその知見を応用した新たな治療法の開発が期待されます。

今後の展開

今後、HLAとネフリンの関連についても検討し、ステロイド感受性ネフローゼ症候群の病因・病態への解明につなげるとともに、より有効で安全な治療法や発症予防法の開発を目指します。

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