News Release

世界最小のニューロン記録電極デバイスを開発

究極の低侵襲、安全な脳計測技術に向けて

Peer-Reviewed Publication

Toyohashi University of Technology (TUT)

ニューロン記録用STACKデバイスの写真

image: 先端直径が3 µm 以下、長さが400 µmのプローブ電極を形成した約1 mm2ブロックモジュールをポリイミド製のフレキシブル基板を介して別のアンプ(増幅器)モジュールに積層した電極デバイス view more 

Credit: COPYRIGHT (C) TOYOHASHI UNIVERSITY OF TECHNOLOGY. ALL RIGHTS RESERVED.

<概要>

 豊橋技術科学大学電気・電子情報工学系 河野 剛士准教授、応用化学・生命工学系 沼野 利佳准教授、エレクトロニクス先端融合研究所 鯉田 孝和准教授と茨城工業高等専門学校の研究チームは、これまでの細胞外計測用の電極と比べて極めて小さい、直径が僅か3 µmのプローブにアンプ(増幅器)を搭載した電極デバイスを開発しました。今回開発したプローブ電極は、世界最小のサイズとなります。一方で電極の微小化に伴い、高いインピーダンス(交流抵抗)等の電極特性を示しますが、これらを直下に搭載したアンプにより改善すると共に、マウスの計測では高い信号対雑音比によるニューロン信号が記録できることを証明しました。

<詳細>

 微小電極を用いる電気生理学的手法は、他の脳計測法と比べて計測できるニューロン信号の時間、空間分解能の観点で優位です。しかし、その電極の大きさは、50 µm以上で血管[血管脳関門(blood – brain barrier: BBB)]の損傷を引き起こし、〜20 µm以上においてもグリア細胞と呼ばれるニューロン以外の細胞の損傷を引き起こします。一方で、電極のサイズが10 µm以下の場合にはこれらの損傷が低減できることが知られているため、電極の微小化が求められていました。半導体集積回路技術やMEMS(Microelectromechanical systems)技術により、10 µm以下の電極の形成は可能となりましたが、更なる微小化においては、その高インピーダンス化も含めた電極特性の劣化に伴い、ニューロン信号が計測できなくなる課題がありました。

これらの課題に対し、本研究チームはこれまでにない世界最小となる3 µm直径のプローブ電極の直下にアンプを搭載したニューロン計測用の電極デバイスを開発しました。

「10 µm以下のプローブ電極の特性改善のために、私たちはこれまでに低インピーダンス材料によるプローブ先端のメッキ法を提案してきました。これにより7 µm直径のプローブによるラットや5 µm直径のプローブによるマウスからのニューロン計測をこれまでに実現してきました。しかし、メッキ法はプローブのサイズを増大させるため、更なる電極の微細化には限界がありました。この課題に対し、私たちはこれまでの手法とは異なるアンプ[インピーダンス変換(ソースフォロワ)]をこの微小プローブの直下に積層するデバイスを提案しました。マウスを用いたニューロン計測では、プローブ電極のみではその高インピーダンス特性からニューロン信号を確認できませんでしたが、アンプを介すことで同一のプローブ電極においても高い信号対雑音比におけるニューロン信号を計測することができました。この結果は、これまでの電極サイズを更に微小化できることを示唆するものです」と筆頭著者の電気・電子情報工学専攻修了生の北 祐人さんは説明します。

<開発秘話>

 研究チームのリーダーである河野剛士准教授は「これまでは集積回路(MOSFET)とマイクロプローブ電極を同一の半導体シリコン(Si)基板上に製作してきました。しかし、700度以上の高温下での結晶成長で形成されるプローブ(VLS法)とMOSFETの製作プロセスの相性が良くなく、またプローブ成長には結晶面方位が(111)のSi基板が必要なのに対し、MOSFETには通常(100)のSi基板が用いられる等の課題がありました。今回はこれらの課題を実装技術で解決しました。このアイデアは最初、週一回の学生や研究員達とのミーティングで出てきたものです。その直後に、‘STACK’(a single needle-electrode topped amplifier package)をプロジェクトのコードネームとして名付け、チーム全体でこのデバイスの実現に取り組みました。」

<今後の展望>

 さらに「今回製作した電極は単一のチャンネルですが、提案手法により多チャンネル化も可能となります。また、これまでの低インピーダンス材料を用いる手法とは異なり、アンプの搭載により微小電極の高インピーダンス特性(例えば1 kHzで5 MΩ)を500分の1程度に低減できるため、今後はナノスケールも視野に入れた更なる電極の微細化が可能になると考えています」と河野准教授は続けます。また本研究チームは、今回の電極デバイスの課題として基板の薄膜化、フレキシブル化にも既に取り組んでおり、更なる低侵襲性、安全性と長期的なニューロン計測に向けて現在研究を進めています。

###

<外部資金情報>

本研究は、JSPS科学研究費(基盤研究(B)17H03250、若手研究(A)26709024、基盤研究(A)20H00244、新学術領域研究(研究領域提案型)15H05917)、NEDO(次世代人工知能・ロボット中核技術開発)、公益財団法人 武田科学振興財団、および豊田理研スカラーの助成を受けたものです。

<論文情報>

Yuto Kita, Shuhei Tsuruhara, Hiroshi Kubo, Hirohito Sawahata, Shota Yamagiwa, Koji Yamashita, Shinnosuke Idogawa, Yu Seikoba, Xian Long Angela Leong, Rika Numano, Kowa Koida and Takeshi Kawano (2021). “Three-micrometer-diameter needle electrode with an amplifier for extracellular in vivo recordings,” Proceedings of the National Academy of Sciences, 10.1073/pnas.2008233118.


Disclaimer: AAAS and EurekAlert! are not responsible for the accuracy of news releases posted to EurekAlert! by contributing institutions or for the use of any information through the EurekAlert system.