video: In the experiments that tested for proprioception, the octopuses tended to use "straight" movements, aimed at either the left or right side of the maze. In the experiments that tested for tactile discrimination, the octopuses chose to use slower "search" movements. view more
Credit: Reproduced with permission from Elsevier. Originally published 10 Sep 2020 by Current Biology in "Use of Peripheral Sensory Information for Central Nervous Control of Arm Movement by Octopus vulgaris"
タコは、エイリアンと異名がつくほど、地球上で最も奇妙な生物の1つで、3つの心臓と8本の手足、そして高い知能を持ちます。非常に柔軟で多用途に使える8本の腕で、瓶を開けたり、パズルを解いたり、水槽から脱出したりすることができます。しかし、タコがどのようにして8本すべての腕をコントロールしているかについての詳細は未だに謎のままであり、研究者たちが現在も解き明かそうとしています。
沖縄科学技術大学院大学(OIST)でタコの研究を行っていたタマー・グットニック博士は、次のように述べています。「タコの腕は実にユニークです。全部で8本ある腕にはそれぞれ200個以上の吸盤が付いていて、それらを使って周囲にあるものの感触や味、匂いを感じ取ることができるだけでなく、すべての腕を思うように動かすことができるのです。吸盤はものを掴むことができ、腕の曲げ方は無限とも言えるほど多くあります。これが脳に大変な計算上の課題を与えるため、すべての情報を処理するためには、タコの神経系は非常に特殊な編成になっていなければならないのです。」
タコは発達した神経系を持ち、神経細胞の数は犬と同等で5億個以上あります。しかし、神経細胞の大部分が脳にある犬などの脊椎動物とは異なり、タコの神経細胞の3分の2以上は腕や胴にあります。
このように奇妙に形成された神経系を持っていることから、タコの腕はそれぞれ脳を持っていて、中枢の脳からは独立して行動しているのではないか、と科学者たちは以前から考えてきました。これまでの研究で、タコの腕は反射ループを使って協調した動きをつくり出したり、捕食者の注意をそらすために切り離されることもあり、切り離された腕はその後も長時間動き続けるということがわかっています。
「タコは中枢の脳1つと腕に小さな8つの脳、合計で9つの脳を持つ生物だと考える研究者もいます」とグットニック博士は話します。しかし、Current Biology誌にこの度掲載された博士の新たな研究では、腕と脳がこれまで考えられていた以上につながっていることを示唆しています。
グットニック博士の研究チームは、経路が二手に分かれた迷路で、タコはたとえ目の前に自分の腕や報酬が見えていない状態でも、片方の経路に1本の腕を入れると餌の報酬を受け取ることができることを学習できることを示しました。そして極めて重要な点として、学習プロセスは脳の中枢部で行われる一方で、脳が正しい経路を選択するために必要な情報は、迷路の中の腕だけが感知しているということです。
「この研究は、タコの腕が中枢の脳から完全に独立して行動しているのではなく、末梢神経系と中枢神経系の間に情報の流れがあることを明らかにしました。タコが9つの脳を持つというよりは、1つの脳と8本の非常に賢い腕を持っているということです。」とグットニック博士は説明しています。
迷路を道案内する
研究チームは、固有受容感覚(手足の位置と動きを感知する能力)と触覚情報(質感を感知する能力)という2つの異なる感覚情報を、1本の腕が脳に与えることができるかどうかを調べました。
私たち人間は、強い固有受容感覚を持っています。皮膚や関節、筋肉にある感覚受容体からフィードバックを受け取った脳は、その情報を保存し、身体のイメージであるメンタルマップを絶え間なく更新しています。この固有受容感覚のおかげで、私たちは足元を見ることなく歩いたり、目を閉じたまま鼻先を触ったりすることができるのです。
しかし、タコにも同様の能力があるかどうかはまだ証明されていません。
「タコが実際に自分の腕の位置や動きをわかっているかどうかは不明です。だから私たちの最初の疑問は、タコは自分の腕が見えていなくても、どこにあるかを感知するだけで、その腕に指令を出すことが可能かどうかということでした」とグットニック博士は説明します。
研究チームはシンプルなY字型の不透明な迷路を作成し、一般的な地中海のタコ6匹に、左右一方の経路と報酬の餌を関連付けて覚えるよう訓練しました。
タコは迷路の内部形状をゆっくりと探るのではなく、側管に腕を押し入れるか、巻いていた腕をまっすぐ伸ばすかの素早い動きを即座に行うことで、ゴールであるボックスに腕を到達させました。正解のボックスに腕を入れると餌を取り出せますが、不正解のボックスに入れると餌は網で塞がれており、研究者により迷路は撤去されます。
6匹のうち5匹は、最終的に餌を獲得するためにはどちらの方向に腕を押し入れるたり伸ばせばよいかを学習しました。
「タコは餌の報酬獲得につながる方向への運動を繰り返すことを学習しているため、明らかに腕の動きをある程度把握していることが示されました。人間が持つメンタルマップや脳内の身体表象と同程度ではないと見られますが、タコの中枢の脳は、一定のレベルで腕からの自己運動の感覚情報を得ているのです」とグットニック博士は説明しました。
研究チームは次に、タコが1本の腕を使って迷路の内面の質感を感じ取ったときに、正しい経路を判断できるかどうかを調べました。
別の6匹のタコに、片方の側管の内面がザラザラとしているものと、もう片方の側管の内面がなめらかなY字型の迷路を用意しました。それぞれのタコが、迷路のザラザラな方となめらかな方のどちらか一方を選ぶと、餌の報酬が与えられるしくみです。
何度も試行錯誤を重ねた結果、6匹中5匹が、側管内面のそれぞれの質感が左右どちら側にあるかに関わらず、きちんと選択し、どちらの側管に餌があるかを学習したことがわかりました。その場合、タコは迷路をゆっくりと探索をし、まず側管内面の特質を判断してから、その側管を進むか、別の側管に移動するかを判断しました。
重要なことは、左右どちらのタイプの迷路でも、ひとたびタコが正しい関連付けを学習すると、それまで使われていなかった腕を使って側管をきちんと選択できることがわかりました。「この結果は、各腕が独立してタスクを学習しているという考えを否定することになります。タコの学習は脳内で行われ、その後、学習された情報がそれぞれの腕で利用可能になるのです。」
ただし脳内のどこにこの情報が保存されているかはわかっておらず、今後の実験に委ねられた問題でもあります。
「タコの脳は人間とはまったく異なっています。実際、私たちにとっては未だによくわからず、まだまだ学ぶべきことはたくさんあります」と、グートニック博士は語っています。
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Journal
Current Biology