News Release

原因不明の免疫性神経疾患ギラン・バレー症候群に関連する遺伝子変異の同定に成功

ギラン・バレー症候群発症の仕組み解明への手がりとリスク因子の同定

Peer-Reviewed Publication

Tokyo Medical and Dental University

Identification of a gene associated with Guillain-Barré syndrome (GBS) suggests pathogenesis of the disease.

image: Patients with GBS characteristically produce autoantibodies to sialic acid-containing glycolipids called gangliosides present in neuronal cells. These autoantibodies are thought to bind to gangliosides present on the surface of neurons, and cause paralysis and sensory disturbance by damaging neurons. Here we demonstrate that a rare variant of the molecule called Siglec-10 accumulates in patients with GBS. Siglec-10 is a cell surface molecule present in various immune cells including antibody-producing cells. Siglec-10 recognizes sialic acid-containing molecules including gangliosides as ligands, and is known to inhibit activation of antibody-producing cells upon interaction with the ligands. Normal Siglec-10 may inhibit activation of anti-ganglioside antibody-producing cells when these cells interact with gangliosides present in neurons. In contrast, the Siglec-10 variant accumulated in patients with GBS shows impaired binding to gangliosides. Therefore, this Siglec-10 variant may fail to inhibit activation of anti-ganglioside antibody-producing cells, thereby allowing production of anti-ganglioside autoantibodies. view more 

Credit: Department of Immunology, TMDU

 東京医科歯科大学難治疾患研究所免疫疾患分野の鍔田武志教授と分子構造情報分野の伊藤暢聡教授の研究グループは、近畿大学医学部神経内科楠進教授および星薬科大学、藤田医科大学、Academia Sinica(台湾)との共同研究で、原因不明の免疫性神経疾患のギラン・バレー症候群で、免疫細胞の機能を抑制するSiglec-10分子の機能をそこなうまれな変異が集積することをつきとめました。この研究は文部科学省科学研究費補助金および難治疾患共同拠点の支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、国際科学誌Journal of Autoimmunityに発表されました。

 本研究では、シアル酸に結合し抗体産生細胞などの機能を抑制するSiglec-10分子のまれな変異が、ギラン・バレー症候群に集積することを明らかにしました。ギラン・バレー症候群では、ガングリオシド(シアル酸を含有する糖脂質)によく似た物質を保有する病原体への感染などが引き金となり、神経細胞の表面に存在するガングリオシドへの抗体が産生され、抗体の結合による神経障害のために運動麻痺や感覚障害がおこります。ギラン・バレー症候群で集積する変異Siglec-10はガングリオシドに結合できないために、ガングリオシドに反応した免疫細胞の活性化を抑制できず、ガングリオシドへの自己抗体産生がおこることが示唆されます。

【研究の背景】  

ギラン・バレー症候群は、感染などを引き金にして起こる急性の神経疾患で、末梢神経が麻痺するため人工呼吸器の装着などが必要になることもある疾患です。我が国では毎年10万人あたり1-2人が本症候群を発症します。急性期を乗り切ると多くは治癒しますが、後遺症により自力歩行ができないままとなる場合もあります。

 本症候群の発症には自己免疫が関与するとされています。ガングリオシド※1と呼ばれる糖脂質のうち神経細胞が特徴的に産生するガングリオシドなどに対する自己抗体が産生され、この抗体により神経が障害されて運動麻痺や感覚障害がおこるとされています。引き金となる感染微生物が産生するガングリオシドと類似の物質への免疫反応がきっかけとなりガングリオシドなどへの抗体産生がおこることが示唆されていますが、多くの感染者の中でごく一部の人で自己抗体が産生され、本症候群が発症する仕組みについてはわかっていませんでした。

 疾患に関連する遺伝子は、疾患発症のリスクの評価とともに、疾患発症の仕組みの解明の手がかりとなります。本症候群以外の自己免疫疾患では、免疫応答を制御する主要組織適合抗原をはじめ種々の遺伝子が疾患に関連する遺伝子として同定されていますが、ギラン・バレー症候群に特徴的に関連する遺伝子についてはこれまで知られていませんでした。

【研究成果の概要】  

研究グループでは、近畿大学を受診したギラン・バレー症候群患者のDNA配列の解析を行い、Siglec-10遺伝子の変異が本症候群患者で有意に集積していることを明らかにしました。この変異は、日本人や中国など東アジアでのみ存在し、この地域の約1%の人に認められるまれな変異です。

 Siglec-10は免疫細胞の表面に存在する分子で、シアル酸と呼ばれる糖に結合すると、免疫細胞の機能を抑制します。ギラン・バレー症候群で集積する変異がSiglec-10の機能に与える影響を調べたところ、この変異によりシアル酸への結合が損なわれることが明らかになりました。さらに、Siglec-10の分子構造のモデリングを行ったところ、この変異によりSiglec-10がシアル酸に結合する部位の構造が変化することが明らかとなりました。この構造変化によりシアル酸への結合が損なわれるものと考えられます。

 ギラン・バレー症候群では、神経細胞の表面に存在するガングリオシドへの自己抗体が産生され、その発症に関わりますが、ガングリオシドはシアル酸を含有する糖脂質です。Siglec-10の変異により免疫細胞がガングリオシドに反応した際のSiglec-10による免疫細胞活性化の抑制が損なわれ、その結果、ガングリオシドへの自己抗体が産生されるるものと考えられます。

【研究成果の意義】  

疾患に関連する遺伝子の同定には、これまで一塩基多型(SNP)などを利用した関連解析が行われて来ましたが、このような解析ではまれな変異を検出することができませんでした。関連解析で多くの疾患関連遺伝子が同定されましたが、この手法では疾患の遺伝要因のうち一部しか同定されないことも明らかになり、配列解析によるまれな変異の同定が疾患の遺伝要因の解明で重要であることが示唆されていました。本研究でも、これまで遺伝的な要因が不明であったギラン・バレー症候群で、配列解析により本症候群に関連するまれな変異を同定することができました。

 本研究では、これまで特異的な遺伝要因が同定されなかったギラン・バレー症候群で、世界に先駆けて遺伝要因を明らかにしました。本研究の成果からSiglec-10の機能欠損がギラン・バレー症候群の発症に関与することが示唆されます。この成果は、本症候群の発症の仕組みの解明や新たな治療法の開発の手がかりとなると期待されます。

 ギラン・バレー症候群は感染症が引き金となって発症します。とりわけカンピロバクター感染症などいくつかの感染症が引き金となりやすいことがわかっています。本研究で発見したまれな変異を持つ場合には、生肉等を避けるなどでこれらの感染症にかからないようにし、もし感染した場合には抗菌薬の早期投与を行うなどの配慮をすることにより、本症候群発症を未然に防ぐことにつながる可能性があります。

【用語解説】

※1ガングリオシド 糖と脂質からなる物質で、細胞膜などの生体膜に存在します。ガングリオシドは神経細胞以外の細胞全般にも存在しますが、神経細胞には糖鎖部分がより複雑なガングリオシドが存在します。ギラン・バレー症候群ではこのような神経細胞で特徴的に存在するガングリオシドへの抗体が産生されます。

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