image: Seasonal variations in vegetation index observed by Himawari-8 (middle) and Suomi-NPP (bottom) at Takayama in-site observation site and camera images taken downward at the site (top). view more
Credit: Tomoaki Miura and Kazuhito Ichii
ハワイ大学・海洋研究開発機構・千葉大学・愛知県立大学の国際共同研究チームは、次世代型の気象衛星ひまわり8号の観測データを用いて、日本の植物が季節によってどう変化するのか上空からのモニタリングを行いました。その結果、葉が開く展葉時期や葉が落ちる落葉時期などの季節変化を約4日という短い間隔で頻繁に捉えることに成功しました。気象衛星の利用により広域の植生モニタリングを強化できることが実証されたことで、気候変動が植生に及ぼす影響をより詳細に把握できることが期待されます。この研究成果は国際学術誌「サイエンティフィック・リポーツ(Scientific Reports)」に10月30日に掲載されました。
背景
森林など植物は季節毎に姿を変えますが、その変化は私たちの生活にも身近な現象です。例えば、桜の開花日や紅葉日は毎年ニュースになり、私たちは気候の寒暖を植物の変化からも感じています。植物の集団は植生と呼ばれ、温室効果ガスである二酸化炭素の吸収源としての役割も担っており、植生が季節によってどのように変化するのかといった、植物季節(解説1)を把握することは、二酸化炭素の排出削減目標を達成するためにも重要です。
これまで、人工衛星による植生モニタリングが試みられてきましたが、雲が観測の妨げになるという課題がありました。例えば、2017年12月にJAXAによって打ち上げられた衛星「しきさい」は、北極・南極付近を通り地球を周回する軌道(極軌道)であることから、同一地点を観測できる数は1日約1回程度に限られており、観測時に雲がある地域では地表面を観測することができません。
一方、主に気象観測に用いられている次世代型静止軌道気象衛星「ひまわり8号」では、地球の自転とともに地球の回りを移動するため、地球上からは常に同じ場所にあります。このため、10分単位で地表面の同一地点を観測し、カラー画像として記録することで、雲の晴れ間が出た際に地表面をクリアに観測することができます。 今回、国際共同研究チームは、このひまわり8号の観測データを植生モニタリングに適用し、日本国内の植生観測がどの程度向上するのか解析しました。
結果
2016年のデータを解析した結果、ひまわり8号では、従来型の極軌道衛星である米国Suomi NPP衛星と比較して、約26倍の頻度でデータを取得できることがわかりました。また、ひまわり8号の方が雲のないデータを多く得られることもわかりました。観測地域に台風が到来した前後では上空に雲が連続してかかってしまい、良質なデータが得られないことが一部ありましたが、それ以外では、雲のないデータを取得するのにかかる日数の間隔が、従来型の衛星では7〜16日であったのに対し、4日程度で得ることができました。
さらにひまわり8号では、植物の量や活力を表す植生指標(解説2)の季節変化として、春の葉が開く展葉時期から、秋の葉が落ちる落葉時期までの植生の変化をほぼ連続的に取得できました。展葉や落葉といった植生変化は現地観測で得られた樹木のカメラ画像ともよく一致しており、展葉時期に植生指数が増大し、逆に落葉時期には植生指数が減少することを正確にとらえられることもわかりました。
今後、気象衛星ひまわり8号による植生モニタリングの対象領域を広げ、東南アジアなどの雲が多い熱帯地域においても植生の変化を観測することで、植生に対する気候変動の影響について科学的な知見を提供できることが期待されます。
###
研究者からのコメント
ハワイ大学のTomoaki Miura 教授は「静止気象衛星ひまわり8号で観測可能となった詳細な植物季節の変化情報は、色々な形での応用利用が期待されます。例えば乾期やその他の自然災害による植生の活性度低下の早期発見にも応用可能と思われます」と述べています。
また、千葉大学の市井和仁 教授は「本成果は、気象観測を主目的とした『ひまわり』が、植生モニタリングにも適用できるといった、『ひまわり』の可能性を広げるよい実例であると考えています。今後、従来の衛星観測では見えなかった様々な植生変動が検出できるかと考えています」としています。
研究プロジェクトについて
本研究は、日本学術振興会外国人招へい事業(L18554)と、千葉大学環境リモートセンシング研究センター共同利用研究(国際)として実施されました。本研究で使用したひまわり8号データは千葉大学環境リモートセンシング研究センターで公開しているデータを用いました。
論文情報
著者名:Miura T., Nagai S., Takeuchi M., Ichii K., Yoshioka H. 論文タイトル: “Improved Characterisation of Vegetation and Land Surface Seasonal Dynamics in Central Japan with Himawari-8 Hypertemporal Data” 雑誌名:Scientific Reports DOI: https://doi.org/10.1038/s41598-019-52076-x
解説
1. 植物季節 気温や日照時間などの季節変化に反応して植物が示す現象で、発芽・展葉・開花・紅葉・落葉などが挙げられます。桜の開花日や紅葉日は広く知られている植物季節の指標の一つです。
2. 植生指標 衛星観測データを使い、植生による光の反射の特徴を用いて、簡易な計算式で植生の状況を把握することを目的として考案された指標。植物の量や活力を表し、高い値ほど植生の量が多く活力が高くなります。
Journal
Scientific Reports