ヒト関節の軟骨において生涯にわたる摩耗に対して潤滑性を維持するメカニズムから洞察を得て、研究者らは自己再生能をもつ脂質ベースの境界層を有する極めて潤滑性の高いハイドロゲルをデザインし、その結果、他のハイドロゲルと比べて摩擦や摩耗が100倍近く減少する。このアプローチは、再生医学やバイオセンサー開発などの低摩擦・低摩耗の材料が必要になる様々な生物医学的応用においてハイドロゲルの持続的な潤滑性を保つための方法となる可能性がある。多くの生物医学的応用にとって、過剰な摩擦やダメージをもたらす摩耗が生じることなく、ハイドロゲルを互いにこすり合わせることができなければならない。多くの場合、ハイドロゲルの潤滑性はハイドロゲル内に含まれる液体によって可能になり、これにより表面上で潤滑性のあるインターフェースが形成される。対照的に、関節軟骨の持続的かつ自己再生的な潤滑性は、部分的には、ホスファチジルコリン(PC)脂質を発現する非液体性の境界層によるものである。ヒト関節の複雑なハイドロゲルの長期間持続する潤滑性から洞察を得て、Weifang Linらは、そのメカニズムを適用して合成ハイドロゲルに潤滑性を与えた。Linらは、少量のPC脂質を含む数種類のハイドロゲルを合成した。含有された脂質はハイドロゲルの表面に遊走し、分子構造的に薄く潤滑性のある境界層を生み出す。脂質ベースの境界層が摩耗すると、さらなる脂質が浸出し、潤滑性のある表面を持続的に再生する。これらの結果によると、このアプローチにより、脂質を含まないハイドロゲルと比べ、また幅広い条件下において、摩擦と摩耗の両方が大幅に低下した。さらに、このハイドロゲルは乾燥させてから再度水分を与えた後も、その潤滑性および潤滑性再生能が維持された。「Linらは、潤滑性の自己再生能を有するハイドロゲルを作成する簡単かつ効果的な方法、すなわち脂質を含ませることで体積の機械特性への影響を最小限にするという方法を示した」と、関連するPerspectiveでTannin Schmidtは記している。「実際、この発見は生物学および医学に関連する多数の分野において適用性および有用性を示す可能性があり、今後の研究と応用によって達成されるものを見ることは非常に興味深であろう」と、Schmidtは記している。
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