News Release

感染や炎症時、真の造血応答を観察できる新規解析法を開発

造血系疾患の病態解析と治療法開発に期待

Peer-Reviewed Publication

Tokyo Medical and Dental University

Figure 1. CD86 is a marker for identifying hematopoietic progenitor cells under biological stress

image: Both Sca-1 and CD86 are expressed on hematopoietic stem progenitor cells (HSPCs) at steady state. However, under biological stresses, such as infection and inflammation, myeloid progenitors acquire Sca-1 expression, which makes the identification of HSPCs impossible. Because CD86 expression remains unchanged even under the stresses, CD86-based analysis enables observation of bona fide hematopoietic responses. view more 

Credit: Department of Biodefense Research, Medical Research Institute, TMDU

 東京医科歯科大学・難治疾患研究所・生体防御学の樗木俊聡(おおてき としあき)教授らの研究グループは、感染や炎症などの生体ストレス下でも正確に造血系の変化を解析できる方法を開発しました。この研究成果は、Blood(ブラッド)に2020年5月21日にオンライン速報版で公開されました。

【研究の背景】  

赤血球や白血球、血小板などの血液細胞は、それぞれ酸素の運搬、生体防御、止血などの働きを介して生命や恒常性の維持に必須の役割を担っています。造血系は、血液の源となる造血幹前駆細胞(Hematopoietic stem progenitor cell, HSPC)※1から血液細胞が作られる仕組みであり、骨髄で恒常的に維持されています。HSPCから作られる血液細胞の量や種類は、感染症や炎症性疾患、放射線や抗がん剤治療など、さまざまな生体ストレスにより変動することが知られています。また、HSPCによる血液細胞供給の変動や異常血液細胞の供給は、多くの疾患の回復や進展にも大きく影響することから、生体ストレス下での造血応答を正しく解析することで病態の理解や新たな治療法の開発に繋がることが期待されます。  

造血系は、血液細胞の供給を介して全身に影響を与える大きな仕組みです。そのため、造血系の研究には実験動物を用いた個体レベルの研究が必要不可欠です。しかしながら、これら動物モデルで造血系の解析に使われている従来の方法は、感染症や炎症といった生体ストレス下では正確な解析ができない致命的な欠陥がありました。定常時、大部分の血液細胞を生み出すポテンシャルをもつHSPCはSca-1※2分子(以下、 Sca-1)を発現しています(HSPC)。一方、少し分化の進んだ、特定の血液細胞のみを生み出す前駆細胞はSca-1を発現していません(造血前駆細胞)。ところが、ストレス環境下でインターフェロン※3が産生されると、インターフェロンの刺激によって後者にもSca-1が発現してしまい、両者の区別がつかなくなってしまいます(従来法)。そこで研究グループでは、ストレス存在下でも両者を区別できる新たな指標を用いた解析法を開発することにしました。

【研究成果の概要】  

研究グループは、Sca-1に替わる新たな指標となる分子を探索しました。造血前駆細胞に発現する180個の分子をスクリーニングした結果、CD86※4分子(以下、 CD86)が、定常時、Sca-1と類似の発現パターンを示すことが分かりました。次に、CD86が感染症や炎症に伴い、定常時に発現していなかった前駆細胞に発現誘導されるか解析しました。その結果、 Sca-1とは対照的に、 CD86は生体ストレス環境で産生されるインターフェロンの影響をほとんど受けないことが判明しました。さらに、CD86を新たな指標にして、生体ストレス下で造血応答を解析した結果、Sca-1を用いた従来の解析法では低下するとされていた赤血球産生が逆に亢進すること、同様に低下するとされていた造血幹前駆細胞の機能が正常に維持されていることが証明されました。

【研究成果の意義】  

本研究成果において、研究グループは、Sca-1の発現を指標にした従来法に替わり、生体ストレス存在下でも厳密に造血幹前駆細胞を検出し造血応答解析を可能にする、CD86を用いた新たな解析法を開発しました。今後、これまで従来法で解析・報告されてきた多くの造血研究成果が、CD86を用いた新たな解析法で再検討され、結論の信頼性が確認または見直されることになります。また、従来法では見逃されていた造血現象の解析が可能になることで、生体ストレスに対する造血応答の理解が深化し、造血系疾患病態の正確な把握や治療法への応用が期待されます。

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【用語解説】

※1造血幹前駆細胞(Hematopoietic stem and progenitor cell, HSPC):生体の生涯にわたって、必要な血液細胞すべての源となる細胞。一般的には、造血幹細胞(Hematopoietic stem cell)と多能性前駆細胞(Multipotent progenitor)が含まれる。本資料では、HSPCと異なって特定の細胞しか生み出すことのできない、より分化の進んだ細胞を便宜上「造血前駆細胞」と呼称した。

※2Sca-1:Stem cell antigen-1の略。マウスで発見された、グルコシルホスファチジールイノシトールに結合するLy(lymphocyte activation protein)-6に属する細胞表面タンパク質。 定常状態において、HSPCはSca-1を発現している。

※3インターフェロン:サイトカインの一種で、当初、ウィルス感染においてウィルスの増殖を抑制する因子として同定された。その後、さまざまな免疫調節作用が報告されている。また、I型、II型、III型に分類される。

※4CD86:別名 B7.2。免疫グロブリンスーパーファミリーに属する共刺激分子。抗原提示細胞上に発現し、T細胞上のCD28分子と結合してT細胞を活性化、CTLA-4分子と結合してT細胞活性化を抑制する。


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