News Release

850度で焼いても高透過率を示す高屈折率材料

-磁性ガーネットとの組合せに成功し性能を10倍改善-

Peer-Reviewed Publication

Toyohashi University of Technology (TUT)

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Credit: COPYRIGHT (C) TOYOHASHI UNIVERSITY OF TECHNOLOGY. ALL RIGHTS RESERVED.

豊橋技術科学大学の後藤太一助教らは,850度の熱処理を施しても,高い透過率を維持できる材料を開発し,光学デバイスに応用しました。このような材料の形成は、「高屈折率材料」では初めてです。今回開発した高屈折率材料を膜状に形成し,低屈折率材料と交互に積層することで,誘電体ミラー1)を形成し,高温の熱処理が必要な磁気光学デバイス開発工程に適用したところ,従来の材料を用いたときよりも約10倍透過率が向上しました。

我々の身の回りにあふれる情報量の爆発的な増加によって,情報処理機器の発展・開発は急務なものとなっています。そんな中,古くから知られている優れた材料をうまく組み合わせることで,従来の性能を大きく上回る材料ができることが最近の研究で分かってきました。しかし,単独では優れた材料であったとしても,他の材料と組合せるとなると,それまで知られていなかった課題が現れることが多くあります。特に熱の問題は分かりやすく,片方の材料がある加熱工程を必要としていても,組み合わせようとしているもう一方の材料がその温度で性能が劣化してしまうようなケースでは,結果として,全体の材料としての性能が落ちてしまい,組み合わせる意味を失ってしまいます。

今回、豊橋技術科学大学とマサチューセッツ工科大学の研究グループは,高屈折率材料と低屈折率材料を交互に積層した誘電体ミラーを,透明な磁性ガーネット2)と組み合せました。この磁性ガーネットは,形成過程で約750度の熱処理を必要とすることから,誘電体ミラーも,この温度に耐える必要がありました。しかし,それまで広く使われていた誘電体ミラーの中の高屈折率材料であるタンタル・オキサイド3)は,約700度で,結晶化注4)し,透過率が著しく下がってしまうことが知られていました。

そこで,絶縁材料5)として研究されていた,「アモルファス・タンタル・イットリウム・オキサイド」6)というタンタル・オキサイドにイットリウム・オキサイド7)を僅かに加えた材料を,高屈折率材料として使ってみると,850度の熱処理を施しても,ほとんど透過率が下がること無く,磁性ガーネットと一体化できることが分かりました。この結果,熱処理を施すことが性能劣化の原因となっていた誘電体ミラーと磁性ガーネットの一体化デバイスの性能を約10倍改善することに成功しました。

「今回は,アモルファス・タンタル・イットリウム・オキサイドを使った誘電体ミラーを磁性ガーネットと組み合わせました。一方で、磁性ガーネット以外にもこれまで高温の熱処理を必要とすることを理由に,誘電体ミラーとの一体化を諦めざるを得なかった材料があります。今回の知見は、それらの材料の利用も加速させると期待しています」と後藤助教は述べています。

形成された材料「アモルファス・タンタル・イットリウム・オキサイド」は,タンタル・オキサイドをベースとし,イットリウム・オキサイドを約14%含んでいます。イットリウム・オキサイド分子が,タンタル・オキサイド分子の中に混在すると,結晶化が妨げられ,この結果,結晶化温度が約850度以上に上昇しました。この材料は,結晶化すると,透過率が下がってしまうため,結晶化温度を上げたことで,透過率の低下を防ぐことに成功しました。結果的に,光デバイスの性能を向上する材料ができたことになります。

試料形成を担当した博士後期課程学生の吉本拓矢氏は「磁性ガーネットは,超高速のディスプレイ,スピン波8)デバイス,レーザー等,幅広い応用先があり,今回の高屈折率材料を含んだ誘電体ミラーを組み合わせれば,これらの性能も飛躍的に向上することが期待できます」と話しています。

今回形成された材料は,室温で形成でき安定しているため,今後は、本材料を用いたスピン波デバイス,小型の磁性ガーネットを含んだレーザーなどへの応用展開が期待されます。

本研究は,豊橋技術科学大学の高木宏幸准教授,中村雄一准教授,内田裕久教授,井上光輝教授,マサチューセッツ工科大学のロス教授との共同で行ったものです。

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用語解説:

1)誘電体ミラー  高屈折率材料と低屈折率材料を光の波長スケールで交互に積層することで特定の光を反射出来る鏡。特定の波長(色)の光だけを透過するフィルターなどに応用されている。

2)磁性ガーネット  磁石の性質をもつガーネット(ざくろ石)。ここではセリウムとイットリウムと鉄を含むガーネットを用いた。電気を通さない材料。

3)タンタル・オキサイド  酸化したタンタル。英語表記は,Tantalum oxide。

4)結晶化  材料中で,ばらばらに配置していた原子が,周期的に配置され,結晶となること。

5)絶縁材料  電気を通さない材料。

6)アモルファス・タンタル・イットリウム・オキサイド  アモルファスは,非晶質(結晶ではない)状態を表す。したがって,非晶質の酸化タンタル・イットリウムを表す。英語表記は,Amorphous tantalum yttrium oxide。略称はaTYO。

7)イットリウム・オキサイド  酸化イットリウム。英語表記は,Yttrium oxide。

注8)スピン波  スピンとは電子の自転運動であり,自転運動による微小な磁石としての性質。スピン波は,スピンの集団運動であり,個々のスピンのコマ運動(歳差運動)が空間的にずれて波のように伝わっていく現象。

ファンディングエージェンシー:

JST さきがけ No. JPMJPR1524

JSPS 科研費 Nos. 26220902, 15H02240, 16H04329, 17K19029

JSPS 頭脳循環を加速する戦略的国際研究ネットワーク推進プログラム No. R2802

矢崎科学技術振興記念財団

NAF ECCS No. 1607865

論文情報:

Takuya Yoshimoto, Taichi Goto, Hiroyuki Takagi, Yuchi Nakamura, Hironaga Uchida, Caroline A. Ross and Mitsuteru Inoue, "Thermally stable amorphous tantalum yttrium oxide with low IR absorption for magnetophotonic devices", Scientific Reports, 7, 13805 (2017). https://doi.org/10.1038/s41598-017-14184-4


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