News Release

最新鋭スーパーコンピュータにより核融合研究が加速

粒子の違いがプラズマの乱れを抑制 

Peer-Reviewed Publication

National Institutes of Natural Sciences

image: Compared to the previous system, the new plasma simulator performs more than eight times better, and that performance is the twelfth best in the world and the second best in Japan (performance benchmark; HPCG benchmark (as of June 2015)). In conducting deuterium plasma turbulence simulation in the LHD, in the old system calculation itself took more than 400 hours, and (from the beginning of the simulation until the final results were obtained) more than six months were necessary for the completion of all analyses. Using the new plasma simulator, calculation took 50 hours, and all analyses were completed in approximately one month, and regarding the many problematic conditions in the previous computer, it is now possible to undertake simulation analyses. view more 

Credit: National Institutes of Natural Sciences

自然科学研究機構 核融合科学研究所では、新たに導入された「プラズマシミュレータ」を用いて、世界で初めて大型ヘリカル装置(LHD)における重水素プラズマの乱れのシミュレーションを実現しました。これにより、重水素のプラズマでは、軽水素のプラズマに比べて熱の閉じ込めが改善されることを予測するとともに、その機構を解明しました。

プラズマシミュレータの性能は、プラズマ・核融合科学研究の専用計算機としては、世界一です。その全性能を駆使して得られた本成果は、今後のLHD重水素実験におけるプラズマの高性能化の研究につながるものであり、さらに、最新鋭のプラズマシミュレータの利用によって核融合研究が飛躍的に進展することが期待できます。

 核融合発電の実現には、プラズマを1億度以上の温度にまで加熱し、その熱を閉じ込めて高温状態を長時間維持する必要があります。

プラズマの温度の向上と長時間維持に向けた研究テーマの一つに、プラズマの乱流という現象があります。プラズマ中に波や渦といった乱れ(すなわち乱流)が発達すると、プラズマの温度の高い部分が温度の低い部分にかき混ぜられるため、プラズマの温度が向上しません。プラズマは多数のイオンと電子の集合である上に磁場で閉じ込められているため、このプラズマの乱れはとても複雑で、それを調べるためには、実験に加えて、スーパーコンピュータによる大規模シミュレーションが欠かせません。

核融合科学研究所の数値実験炉研究プロジェクトでは、プラズマの乱れをシミュレーションするためのプログラム -5次元プラズマ乱流シミュレーションコード「GKV」を開発しています。これまで、「GKV」を用いて、LHDの軽水素プラズマの乱れや熱の閉じ込めの研究を行ってきました。一方、LHD実験では、2017年3月から、これまで用いてきた軽水素の約2倍の質量を持つ重水素を用いた実験を行う予定です。重水素のプラズマでは、軽水素のプラズマに比べて、プラズマ性能の向上が予想されるため、乱れや熱の閉じ込めがどのように変わるかを解明することは重要な研究テーマです。ところが、重水素プラズマのシミュレーションは、より大規模で長時間を要するため、これまでその実行は極めて困難でした。

2015年6月に新たに導入された「プラズマシミュレータ」は従来に比べて8倍以上も性能が向上したため、その全性能を駆使することにより、LHDの重水素プラズマの乱れについてのシミュレーション研究が可能になりました(図1)。

核融合科学研究所の数値実験炉研究プロジェクトの仲田資季助教らの研究グループは、乱流シミュレーションコード「GKV」を改良し、新プラズマシミュレータの全性能を駆使することで、LHDにおける重水素プラズマの乱流シミュレーションを世界で初めて実現しました。そして、捕捉粒子と呼ばれる磁場の中を往復運動する粒子が生み出す乱れを解析し、従来の軽水素に比べて重水素のプラズマでは、乱れが抑制されて熱の閉じ込めが改善されることを明らかにしました(図2)。また、乱れの抑制の原因は、「ゾーナルフロー」と呼ばれる現象が、プラズマの乱れとなる大きな渦や波を効果的に分断するためであることも明らかになりました。

 新プラズマシミュレータによって得られた本成果は、今後のLHD重水素実験におけるプラズマの高性能化の研究につながるものです。今後は様々な条件でのプラズマ乱流シミュレーションを行い、重水素プラズマの乱れと熱の閉じ込めを詳しく調べる予定です。新プラズマシミュレータによって、プラズマの乱流現象の解明をはじめとする重水素実験における高性能プラズマに関する研究の飛躍的進展が期待されます。

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【用語解説】

軽水素と重水素:
重水素は、水素(軽水素)の同位元素と呼ばれる安定な物質。水素の原子核である陽子に中性子が加わったもので、化学的な性質は変わらず、水素の約2倍の質量を持つ。自然界における存在割合は、軽水素が99.985%、重水素が0.015%。

5次元プラズマ乱流シミュレーションコード「GKV」:
磁場で閉じ込められた高温プラズマの乱れの振る舞いは、数学的に5次元空間(粒子の3つの位置座標に速度の2成分が加わった数学的空間)の運動を表現する方程式で記述される。3次元の方程式で記述される水や空気の流動現象とは大きく異なり、プラズマが持つ複雑さや多様性を表している。スーパーコンピュータを最大限に活用して5次元の方程式を高速に解くことで、プラズマの乱流現象を解析する。

ゾーナルフロー:
発達した乱流から自発的に形成される帯状の流れ構造で、乱れをその流れによってすりつぶすかのように抑制する効果がある。木星大気の縞模様や地球大気のジェット気流においてもゾーナルフローが形成されている。

【本件のお問い合せ先】
核融合科学研究所・ヘリカル研究部・核融合理論シミュレーシ研究系・助教   
仲田資季 (TEL: 0572-58-2276, e-mail: nakata.motoki@nifs.ac.jp)


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