News Release

他者の移動を追体験するバーチャル歩行システム

記録した視覚情報と足裏振動の再生による歩行感覚の錯覚

Peer-Reviewed Publication

Toyohashi University of Technology (TUT)

歩行体験のイメージ図

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Credit: COPYRIGHT (C) TOYOHASHI UNIVERSITY OF TECHNOLOGY. ALL RIGHTS RESERVED.

豊橋技術科学大学教授北崎充晃,東京大学准教授雨宮智浩,首都大学東京教授池井寧らの研究チームは,他者の歩行を記録し,視覚映像と足裏触覚のみで再生するシステムを開発しました。心理実験の結果,歩行時の振動する視覚映像に同期した足裏振動を付加することで,ランダムな足裏振動を組み合わせた場合や足裏振動が無い場合よりも,自己運動感覚や歩行感覚,足を動かしている感覚,そしてテレプレゼンス感覚が増強されることが示されました。つまり,歩行時の振動する視覚映像と同期した足裏振動が歩行体験の生成にとって重要であることが示唆されました。将来,このバーチャル歩行体験システムは,遠く離れた場所を歩く体験を可能とし,歩くことが難しい人に歩く感覚を提供する可能性があります。

歩行は,多くの人が日常生活で頻繁に行う基本的な行動です。歩行は,脳からの運動指令やそれによる全身運動のみならず,視覚,触覚,聴覚,固有受容感覚など多くの感覚に支えられています。それゆえ,バーチャルリアリティを用いて歩行感覚を再現するのは易しいことではありません。

それに対して,豊橋技術科学大学,東京大学,首都大学東京,電気通信大学の共同研究チームは,視覚と足裏触覚に着目して,人の歩行を記録し,それを他者に再生するシステムを開発しました。視覚と足裏触覚は歩行感覚を生じさせる重要な最少の組み合わせと思われたからです。歩行記録システムは,歩行者の視界を頭部に付けたステレオカメラで撮影し,同時に足裏(前足部および踵部)が地面に設置するタイミングを靴に埋め込んだ4つのマイクロフォンで記録します。歩行提示システムは,両眼立体視可能な頭部搭載型ディスプレイ(HMD)と足裏(前足部および踵部)に振動を提示する装置からなります。

このバーチャル歩行システムを評価するために心理実験が行われました。その結果,歩行者の視点から撮影された振動のある映像に加えて,それと同期した足裏振動を提示することで,自己運動感覚,歩行感覚,脚運動感覚,テレプレゼンスが誘発されることが示されました。特に,視覚映像の揺れと足裏振動が同期していることが重要な要因でした。これらの結果は,歩行時の足の接地をシミュレートする足裏振動がバーチャル歩行体験を増強するのに効果的なことを示唆しています。

豊橋技術科学大学で心理学を専門とする北崎充晃教授は,「このバーチャル歩行システムを,将来的には月面や海底のような普段は到底歩けない場所を歩く体験を提供したり,歩くことが困難な方々に歩く体験を提供して生活の質を上げたりできるものにしたいと思っています。本研究はその最初の一歩として,視覚と触覚という限定された感覚での歩行感覚再現を目的としました。」と言います。

東京大学で触覚のバーチャルリアリティを専門とする新進気鋭の研究者,雨宮智浩准教授は,次のように説明します。「足裏への触覚刺激が擬似歩行感覚を誘発するのです。この研究はその心理学的証拠を出しましたと言えます。さらに,我々の別の論文(Psychological Science 誌,2019年9月)では,同様のリズミカルな足裏振動を提示することで,身体の周りに音が近づいているときの触覚処理が促進されることを発見しました。これは,足裏への振動のみで身体近傍空間が前方へ拡張することを示唆します。つまり,足裏振動が歩行の運動プロラミングを自動的に起動し,身体の周囲の空間認知を変化させるのです。」

首都大学東京でバーチャルリアリティ研究を主導する池井寧教授は続けて説明します。「このような研究を通して,我々はバーチャルリアリティを用いて,全身の追体験を実現するシステムを開発し続けています。例えば,FiveStar VRと名付けたシステムは,視覚,前庭感覚,固有受容感覚,嗅覚,風感覚,聴覚,触覚などを総動員して他者の経験の再現を行います(ACM SIGGRAPH Asia 2018 ベストVR/AR technology賞,動画:https://youtu.be/mOS5JJBSZ3c)。追体験システムは,私たちの日常体験を拡張し,また技能伝承やさまざまな人の生活の質の向上に貢献します。」

将来,バーチャル歩行システムは,私たちが体験できる世界を広げ,歩行に困難を感じる人の生活を豊かにすると期待されます。

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Reference:

Kitazaki M., Hamada, T., Yoshiho, K., Kondo, R., Amemiya, T., Hirota, K., and Ikei, Y. (2019). Virtual walking sensation by pre-recorded oscillating optic flow and synchronous foot vibration. I-Perception, 10(5), 1–14. doi:10.1177/2041669519882448

Amemiya, T., Ikei, Y., & Kitazaki, M. (2019). Remapping Peripersonal Space by Using Foot-Sole Vibrations Without Any Body Movement. Psychological Science, 10.1177/0956797619869337.

Shimizu, K., Sueta, G., Yamaoka, K., Sawamura, K., Suzuki, Y., Yoshida, K., Yem, V., Ikei, Y., Amemiya, T., Sato, M., Hirota, K., and Kitazaki, M. (2018). FiveStar VR: Shareable Travel Experience Through Multisensory Stimulation to the Whole Body. ACM SIGGRAPH Asia 2018, Virtual and Augmented Reality

本研究は,総務省SCOPEプログラム (141203019),日本学術振興会科研費 (A) (18H04118),挑戦的萌芽研究 (16K12477) の補助により行われました。

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