News Release

骨形成に必須の遺伝子の働きを活性化する新しいメカニズムの発見

骨形成低下に伴う骨粗鬆症の新たな治療薬開発に道

Peer-Reviewed Publication

Kumamoto University

野生型(WT)とSIRT7遺伝子欠損(Siert7 KO)マウスの骨組織と、老齢マウスの骨組織における核内サーチュインの発現量

image: 

a. 背骨の組織像、骨(黒色に染色)の量がSirt7 KOで減少している。b. 骨形成速度と骨芽細胞数がSirt7 KOで減少している。c. SIRT7とSIRT6の発現が老齢マウスの骨組織で減少している。

Adapted from Fig. 2 of Fukuda, M., Yoshizawa, T., Karim, M. F., Sobuz, S. U., Korogi, W., Kobayasi, D., ... Yamagata, K. (2018). SIRT7 has a critical role in bone formation by regulating lysine acylation of SP7/Osterix. Nature Communications, 9(1). doi:10.1038/s41467-018-05187-4.

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Credit: Dr. Tatsuya Yoshizawa

【研究の背景】

骨粗鬆症は骨量と骨質の低下により骨折が起こりやすくなる疾患であり、世界では2億人が罹患していると言われています。加齢による骨の老化は骨粗鬆症の最大の要因の一つです。大腿骨と股関節を結ぶ大腿骨頸部や脊椎を構成する椎骨の骨折は、寝たきりの原因となり、要介護、QOL(生活の質) の低下、全身の機能低下、死亡率の増加などを引き起こします。

生体の骨組織は、日々少しずつ壊され(骨吸収)、新たに作られる(骨形成)ことを繰り返しています。このバランスが崩れ、骨吸収が骨形成を上回ると、骨密度が減少します。骨粗鬆症の治療では、骨吸収を抑える薬剤に比べて骨形成を促進させる薬剤は限られており、骨を再生させる治療薬の開発が望まれています。

サーチュインは、標的タンパク質中のリジン残基に結合したアシル化修飾を取り除く酵素で、老化やストレス応答、様々な代謝などの制御に重要な役割を果たしています。哺乳類ではSIRT1からSIRT7の7種類が存在しています。SIRT7は、がんや脂質代謝に関与することが報告されていますが、骨組織における役割や骨老化との関わりは不明でした。

【研究の内容】

1. SIRT7 が骨形成に及ぼす影響

SIRT7 遺伝子欠損マウスでは、骨量が減少していることを見出しました。さらに、骨形態計測の結果、骨形成および骨芽細胞数が低下していることが明らかになりました。骨芽細胞特異的にSIRT7を欠損させたマウスにおいても同様の結果が得られました。骨芽細胞の SIRT7 は、骨形成に重要であることが判明しました。

2. 老齢マウスの骨組織におけるサーチュインの発現

骨形成の低下は老人の骨粗鬆症でよく見られますが、そのメカニズムは十分に明らかとは言えません。そこで、サーチュイン(SIRT1,6,7)の骨組織における発現を若いマウスと老齢マウスで調べたところ、SIRT7 は加齢により減少することが判明しました。加齢による SIRT7 の減少が、骨形成低下に伴う骨粗鬆症の原因の一つである可能性が考えられました。

3. SIRT7 が骨芽細胞の分化に及ぼす影響

SIRT7 の発現を低下させた骨芽細胞を作成し、培養皿中で骨を作らせたところ、通常の骨芽細胞に比べて骨様の塊(石灰化ノジュール)形成が著しく抑制されていました。さらに、骨芽細胞分化の指標となる遺伝子群の発現も低下していました。SIRT7 は、骨芽細胞の分化を制御することが明らかとなりました。

4.SIRT7 による SP7/Osterix の転写活性化

SIRT7 による骨芽細胞の分化制御メカニズムを解明するため、骨芽細胞の分化に必須の遺伝子発現制御因子の転写活性を調べたところ、SIRT7 が欠損した骨芽細胞では SP7/Osterix の転写活性が著しく低下していました。

さらに、 SP7/Osterixの高い転写活性化のためには、SIRT7 がSP7/Osterix タンパク質の368番目のリジン残基(アミノ酸の一つ) におけるアシル化修飾を取り除くことが重要であることが明らかとなりました。SIRT7 の発現を低下させた骨芽細胞に、SP7/Osterix の368 番目リジンがアシル化されない変異体を導入したところ、低下していた石灰化ノジュール形成の大部分が回復することが明らかとなりました。

以上の結果から、骨芽細胞の分化に必須の遺伝子発現制御因子SP7/Osterix の転写活性化には、脱アシル化酵素としての SIRT7 が重要であるという新たなメカニズムを発見することができました。

研究を主導した熊本大学の吉澤達也准教授は次のようにコメントしています。

「老化した場合など SIRT7 が十分に働かない状況では、SP7/Osterix の転写活性が低いために骨芽細胞が骨を作ることが損なわれ、骨形成低下に伴う骨粗鬆症が引き起こされると考えられます。本研究の研究成果から、SIRT7-SP7/Osterix の調節経路が骨形成低下に伴う骨粗鬆症の新たな治療薬開発のための標的となることが期待されます。」

本研究成果は、科学ジャーナル「Nature Communications」に平成30年7月19日に掲載されました。

【付記】

本研究成果は、熊本大学、鶴見大学、東京医科歯科大学、マックスプランク研究所との共同研究によるものです。

[Source]

Fukuda, M., Yoshizawa, T., Karim, M. F., Sobuz, S. U., Korogi, W., Kobayasi, D., … Yamagata, K. (2018). SIRT7 has a critical role in bone formation by regulating lysine acylation of SP7/Osterix. Nature Communications, 9(1). doi: 10.1038/s41467-018-05187-4

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