News Release

血圧刺激が血管新生を促進するしくみを解明

Finding has implications for combating tumor growth and disease

Peer-Reviewed Publication

Tokyo University of Agriculture and Technology

Transient increase in blood pressure promotes some blood vessel growth

image: A new mechanism discovered which may stimulate blood vessels' inner liner. The finding may lead to therapeutics that could cut vessels off from tumors or help rebuild vessels in degenerative diseases. view more 

Credit: Daisuke Yoshino, TUAT

国立大学法人東京農工大学大学院工学研究院先端物理工学部門の吉野大輔准教授は、シンガポール国立大学のLim Chwee Teck教授、東北大学の船本健一准教授、佐藤正明名誉教授との共同研究により、運動時のような一時的な血圧の上昇が血管新生を促進することを発見し、そのしくみを解明しました。

この血管新生の促進は、血管内腔面に単層で存在する血管内皮細胞が、血圧刺激を受けた時に起こる細胞内外の水の移動により細胞増殖をコントロールするシグナル伝達経路が活性化されることが原因であることを突き止めました。

また、これまで未解明であった圧力刺激を細胞内の生化学シグナルに変換する過程の一端を明らかにしました。

この成果により、今後、血圧刺激を利用した静脈奇形などの血管新生の異常が引き起こす疾患に対する新たな治療法や運動療法の開発に繋がることが期待されます。

本研究成果は、Communications Biology(4月2日付)に掲載されました。

論文名:Hydrostatic pressure promotes endothelial tube formation through aquaporin 1 and Ras-ERK signaling

DOI:10.1038/s42003-020-0881-9

URL:https://www.nature.com/articles/s42003-020-0881-9

背景

私たちのからだに張り巡らされている血管には、様々な刺激に対応して、正常な状態を維持しようとする性質(恒常性)があります。このしくみのひとつとして、血管の内側に単層で存在する血管内皮細胞は、血液の循環により生じる血行力学刺激(流体せん断応力、伸展張力、静水圧)を受けて自らの形態や機能を変化させることで、血管の恒常性を制御しています。血行力学刺激のうち、流体せん断応力や、拍動による血管の拡張・収縮による伸展張力に対しては、血管内皮細胞の刺激感知・応答の機構や、これらの刺激に基づく血管の恒常性制御機構がこれまで明らかにされてきました。しかし、血圧に関係する静水圧刺激に関しては、静水圧刺激の実態を含めて血管内皮細胞の感知・応答機構の大部分が明らかにされていませんでした。

研究体制

東京農工大学工学研究院 吉野大輔准教授は東北大学在籍時から、シンガポール国立大学 Lim Chwee Teck教授、東北大学 船本健一准教授、佐藤正明名誉教授と国際共同研究として本研究を展開してきました。

研究成果

本研究チームは静水圧刺激を加えた細胞の様子を高倍率かつ経時的に観察が可能な静水圧顕微鏡法を新たに確立し、運動時の血圧上昇に相当する50 mmHgの静水圧刺激を3時間加えることで血管内皮細胞による管腔構造形成(注1)が促進されることを見つけました。また、この管腔構造形成の促進には、細胞増殖をコントロールすることで知られる細胞内のシグナル伝達経路(注2; Ras-ERK経路)が静水圧刺激により一過的に活性化されることが原因であることを明らかにしました。このRas-ERK経路の一過的な活性化は、静水圧刺激による水透過チャネル(Aquaporin 1)を介した細胞内外の水の移動を原因とする細胞膜の変形と、その細胞膜変形に伴う特定のGタンパク質共役受容体、Gタンパク質及びProtein Kinase C(PKC)の活性化によって誘導されることを明らかにしました。これらのシグナル伝達経路は静水圧刺激を細胞内の生化学シグナルに変換する過程であり、これまで未解明であった静水圧刺激に対する血管内皮細胞の感知・応答機構の一端を解明できたと考えられます。

今後の展開

今回報告した静水圧刺激による血管内皮細胞の管腔構造形成の促進は、運動時のように一時的な血圧上昇を想定した静水圧刺激によるものです。静水圧刺激の大きさや負荷時間による管腔構造形成促進のシグナル伝達経路の活性や機能の違いを詳細に明らかにすることで、静脈奇形などの血管新生の異常が重要な要因となる疾患に対する新たな治療法や運動効果を最大にする効率的なトレーニング方法の開発につながると期待されます。

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注1) 管腔構造形成  

血管のような管状の構造を血管内皮細胞が作り出すこと。血管新生(新しい血管を形成される現象)に重要な役割を果たす血管内皮細胞の応答の一つ。

注2) シグナル伝達経路  

細胞に作用する刺激を細胞内の生化学的情報に変換し、細胞の応答を誘導するための経路のこと。本研究では細胞増殖をコントロールすることで知られているRas-ERK経路に着目した。Rasは低分子GTP結合タンパク質の一種。ERKはextracellular signal-regulated kinase(細胞外シグナル調節キナーゼ)の略。

謝辞 :本研究の一部はJSPS頭脳循環を加速する若手研究者戦略的海外派遣プログラム、JST科学技術人材育成のコンソーシアムの構築事業、シンガポール国立大学メカノバイオロジー研究所の支援を受けて実施されました。

◆研究に関する問い合わせ◆

東京農工大学大学院工学研究院
先端物理工学部門 准教授
吉野 大輔(よしの だいすけ)
E-mail:dyoshino(ここに@を入れてください)go.tuat.ac.jp


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