News Release

ハブの毒を初めてゲノム解読:ヘビ毒の進化を解明

研究者らはこの度初めて、沖縄において定着した外来

Peer-Reviewed Publication

Okinawa Institute of Science and Technology (OIST) Graduate University

Habu

image: The habu (Protobothrops flavoviridis), native to Okinawa, can reach lengths of 2.5 meters. view more 

Credit: OIST/Steven Aird

クサリヘビ科の、地元ではハブと呼ばれる毒ヘビに一度でも咬まれると、後遺症が一生残ったり、さらには死に至る原因になることがあります。しかし、ハブの毒についてはいまだ多くの謎に包まれています。同一の母親から生まれる同腹仔であっても、その成分には多くの変動が見られ、毒入りカクテルのようなこのハブの毒は、世代を超えて変化しています。

この度Genome Biology and Evolutionに掲載のヘビ毒の進化に関する研究結果で、研究チームは世界初のハブのゲノム解読について発表しました。対象となったのは、沖縄において定着した外来種であるタイワンハブ(Protobothrops mucrosquamatus)と、その姉妹種であるサキシマハブ(Protobothrops elegans)で、これら二種のゲノムを比較しました。

沖縄だけでも、過去1年間に報告されているハブに咬まれる被害は、50件以上にのぼります。世界保健機関(WHO)によれば、世界でヘビ咬傷が原因の死亡件数は、毎年8万1千件から13万8千件確認されています。特に、毒性の種に多くさらされ、医療サービスが十分でない発展途上国や農村地域では、ヘビの咬症被害は深刻な状況にあります。

「長年、ヘビの毒は急速に進化するものだと知られていました。そして、これに対する共通した説明は、自然淘汰によるものでした。」本論文責任著者で、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の生態・進化学ユニットを率いるアレクサンダー・ミケェエヴ准教授は説明します。「しかし、今回の研究で、進化の力のみが働いているわけではないと思われる要因が見つかったのです」

そこで、OIST研究員らと沖縄県衛生環境研究所所属の共同研究者は、30種以上のタイワンハブ、サキシマハブ、および県内の外来種から、毒液と軟組織のサンプルを取り出し毒液のゲノム配列すべてのマッピングを試みたのです。本研究で、この毒液の進化に影響を及ぼす数々の要因について発表しています。

ヘビの咬傷時に見られる化学成分がどのように進化するのかを理解するためには、ハブの毒液の持つ重複性を理解することです。例えば、飛行機に搭載されている複数のエンジンのうち一つが欠如したときでも、他のエンジンで飛行を補う機能があることからもわかるように、ハブもまたその毒液で獲物の体内の機能に対し、咬傷をうまく作用させるために、一度に複数の機能を攻撃するのです。タンパク質と小さな有機分子の複雑な混合物が、複数の血圧や血栓など獲物の生理学的システムの核の部分を攻撃するのです。たとえ、毒液成分のうち一種類が最上の効果を発揮しなくても、その他種々の成分が働くようになっているのです。

一般的に、ハブが注入する毒液は少量で、小さなピンの頭ほどの一滴です。これだけでも、ウサギやリスなどのげっ歯類動物一匹を麻痺させるには十分な量です。進化生物学者はこれを余剰力と呼びますが、これは捕らえられた獲物が逆にハブを傷つけたり殺したりする過剰殺傷といわれる事態に陥るのを防ぐためです。

長い期間をかけて繁殖するに伴い、ハブは、自然淘汰の過程の中でより有利な習性を子孫に残していきます。さらに、その子孫はその他の特性をも遺伝することが可能なのです。それが必ずしも有益な機能を持たない場合がある理由は、ハブの毒の注入量は毒液全体に対し非常に多く、多くのケースで獲物は瞬時に死んでしまいます。その非効率的な作用をも毒液の化学的組成によって遮へいしてしまうからなのです。これらの非効率さは毒液そのものの機能に対しては比較的少ない影響のまま次世代へと遺伝されていきます。

「毒液の進化は二本の軸のように進んでいると考えられます」とミケェエヴ准教授は説明します。「1本はより効果を高めるために押す作用を持ち、その一方では、その効果を減少するような働きをしているのです。」

これは生物学者たちが長い間、推測してきた遺伝的浮動の役割という概念で、今回OIST研究員らは、ハブのゲノム解読でその成果を見出すことに成功しました。これまで発表されたいくつもの研究で、ヘビの毒液の進化に大きく関与してきたのは自然淘汰であることが明らかになっていましたが、ごく最近までは、この浮動という役目は仮説であったに過ぎなかったのです。

「私たちは毒液の特性を徹底的に調査するための分析的手法を提案しているところです」と本論文筆頭著者のスティベン・エアドは語ります。「私たちが今後発見できることは、まだ膨大にあるのです。」

この研究は、医療分野への応用はもちろん、新たな研究の道を切り拓いてくれます。

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