News Release

透明人間は身体所有感を感じるか?

バーチャルリアリティ空間で操作する透明な身体に感じる全身所有感

Peer-Reviewed Publication

Toyohashi University of Technology (TUT)

Demonstrations

video: These are demonstrations of visual-motor synchronous conditions of the experiments. Virtual scenes (left) were observed in a head-mounted display by participants (right). view more 

Credit: COPYRIGHT (C) TOYOHASHI UNIVERSITY OF TECHNOLOGY. ALL RIGHTS RESERVED.

豊橋技術科学大学の近藤亮太(博士後期課程大学院生)と北崎充晃教授,東京大学先端科学技術研究センター稲見昌彦教授,慶應義塾大学理工学部杉本麻樹准教授,慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科南澤孝太准教授らは,目の前の手袋と靴下が自分の手足の運動と同期して運動することで,そこに自在に操作可能な透明身体が補間されて知覚され,それがまるで自分の身体であるかのように感じること(身体所有感の錯覚)を示しました。

 ゴムの手を筆でなぞりながら隠された本当の手をなぞると,ゴムの手が自分の手のように感じます(ラバーハンド錯覚)。同様な視覚触覚統合による受動的方法で全身所有感の錯覚を起こすことができます。また,能動的方法として,身体運動と同期したバーチャルなアバターを見ることで全身所有感を感じさせることもできます。現在,バーチャルリアリティ(VR)が徐々に一般的になってきており,VRを用いることで,見た目や大きさ,性別,年齢などが異なるさまざまな身体に所有感を感じる錯覚を作り出すことが可能になってきました。受動的方法として,お腹を触りながら,VRではお腹を含む全身を消してしまうと,自分の身体が透明になった感じがして,多くの人に見られても不安や緊張が抑えられることが報告されました (Guterstam, Abdulkarim & Ehrsson, Sci. Rep. 2015)。

 しかし,能動的な方法を用いて,しかも本当の身体から離れた場所にある透明な身体に所有感を感じることができるか,それを自在に操ることができるかは分かっていませんでした。

 そこで,豊橋技術科学大学,東京大学,慶應義塾大学の研究者らは,身体運動に注目して,透明な身体に所有感を感じる新しい方法を開発しました。

 彼らは,実験参加者にHMD(頭部搭載型ディスプレイ)を装着してもらい,2m前方に手袋と靴下だけを提示しました(図1左)。20人の大学生・大学院生が実験に参加しました。彼らは,自分の身体運動と同期して手袋と靴下が動いて見える条件と,非同期に関係なく動く条件を各2回,5分ずつ体験したのち,それぞれについて質問紙に答えました。その結果,身体運動と同期して動く手袋と靴下の間に透明な身体があるように知覚され,それが自分の身体と感じられるという回答が,非同期条件よりも有意に高くなりました。つまり,同期条件では,自分の透明な身体が2m先にあるかのように知覚されました。

次の実験では,透明身体と全身アバタとの比較が行われ,そこには有意な差は見られませんでした。最後の実験では,2m前の透明身体への所有感の錯覚を感じている際には,自分の居る場所が前方(透明身体のある方向)にずれて知覚されることが行動計測により示されました。

 近藤亮太(第一著者,豊橋技術科学大学大学院博士課程教育リーディングプログラム履修生)は,「私はさまざまな身体に所有感を感じる錯覚を創り出したいと思って研究をしています。自分の身体やその外見が気に入ってなかったり,そうでなくても今とは違う身体や外見に変わってみたいという願望がある人は多いのではないでしょうか。VRは,私たちが好きな身体を自由に手に入れることを可能とします」と言います。それを受けて,知覚心理学者でもある北崎充晃教授は,次のように述べます。「人は異なる身体を体験し,所有することで,行動も心も変わります。それゆえ,将来私たちが自由に異なる身体を手に入れることが可能となったとき,その社会においてコミュニケーションがどう変わるのかを研究する必要があります。」

 今回の研究は,目の前の手袋と靴下だけを私たちの身体運動と同期して提示することで,私たちが目の前の離れた場所にある透明な身体を自分の身体であるかのように感じることが可能なことを示しました。この方法を用いると,他人が行っている複雑な技能や動作を全身あるいは手足のみで提示し,それに自分の透明な身体を重ねてまねることで学習することが可能となります。透明な身体は対象を遮蔽しないので,他人の運動や操作対象を見ながらそこに自分の身体をおけます。この方は技能伝承や動作学習を促進する可能性があります。

 人のコミュニケーションは身体動作や外見に影響を受けます。この研究は,私たちが自由な身体を手に入れるような未来社会(最初はそれはサイバー社会でしょう)において,コミュニケーションがどう変わるのか,身体から自由になったコミュニケーションはどういうものになるのかを考えるきっかけとなります。

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文献情報:

Kondo, R., Sugimoto, M., Minamizawa, K., Hoshi, T., Inami, M. and Kitazaki, M. (2018). Illusory body ownership of an invisible body interpolated between virtual hands and feet via visual-motor synchronicity. Scientific Reports, 8. doi: 10.1038/s41598-018-25951-2 (2018年5月15日発行)

Funding: 本研究は,文部科学省・日本学術振興会科研費・基盤研究(A)(15H01701), および 挑戦的萌芽研究(16K12477)の補助を受けて遂行されました。


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