News Release

tRNA修飾酵素TruB1によるがん抑制マイクロRNA let-7の特異的制御機構の発見

RNA研究の新展開と新規がん病態解明への期待

Peer-Reviewed Publication

Tokyo Medical and Dental University

TruB1 promotes the maturation of let-7

image: A cell-based screening for novel let-7 regulators identified a tRNA pseudouridine synthase, TruB1. TruB1 directly binds to the stem?loop structure of pri?let-7 and promotes the maturation steps of let-7, selectively. view more 

Credit: Department of Systems BioMedicine,TMDU

 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科システム発生再生医学分野の淺原弘嗣教授、栗本遼太助教らの研究グループは、東京大学大学院 新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻RNA生物学分野の富田耕造教授ら、東京大学大学院工学系研究科 化学生命工学専攻の鈴木勉教授のグループとの共同研究で、tRNA修飾酵素であるTruB1が酵素活性機能とは関係なく、腫瘍抑制マイクロRNA let-7の成熟化を特異的に促進していることを新たにつきとめました。この研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の革新的先端研究開発支援事業(AMED-CREST)、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 CREST、文部科学省科学研究費補助金ならびに米国国立衛生研究所の支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は国際科学誌The EMBO Journalに2020年9月14日にオンライン版で発表されました。

【研究の背景】

 マイクロRNAは、標的mRNAの翻訳抑制および/または分解をもたらすタンパク質にならない小さな非コードRNAです。このマイクロRNAは全遺伝子の約半数の発現を制御していることが報告され、多様な生物学的プロセスにおいて重要な役割を示すことが示されています。中でもLet-7は最初に発見されたマイクロRNAの一つであり(Reinhart et al., Nature. 2000)、進化的によく保存され、がんの抑制機能や発生における役割など、医学・生物学的に非常に重要な遺伝子として知られています。このLet-7はLin28などいくつかのRNA結合遺伝子による制御を受けていることが知られていますが(Newman et al., RNA 2008; Trabucchi et al., Nature 2009; Treiber et al., Mol Cell 2017)、全RNA結合タンパク質についての細胞ベースでの検討はなく、その全貌はまだ十分に解明されていませんでした。研究グループは、約1000種類のRNA結合タンパク質全てを標的として、Let-7を制御する遺伝子を細胞ベースで網羅的に探索する独自のスクリーニングを構築し、新しい制御機構の解明を目指しました。

【研究成果の概要】

 研究グループは、Let-7の結合配列を配したレポーターを作製し、Let-7の細胞内の発現量変化を測定できるルシフェラーゼレポーターアッセイをベースにしたスクリーニング系を開発しました。同手法を用いて、1469種類の全RNA結合タンパク質とその関連遺伝子を標的として、Let-7を制御する遺伝子のスクリーニングを行ないました。その結果、既に報告されている遺伝子(Lin28)の制御に加えて、いくつかの候補遺伝子を同定しました。このうち、tRNAシュードウリジン合成酵素の一つであるTruB1が、マイクロRNAの中でもLet-7を特異的に上昇させることが明らかとなりました。

 TruB1はlet-7を上昇させる一方で、その前駆体であるpri-let-7を低下させており、転写への関与ではなく、転写後の成熟化を促進していることが示唆されました。研究グループは、TruB1のRNA修飾酵素活性を失活させた変異体を作製したところ、この変異体においてもLet-7の上昇が認められ、TruB1がその酵素活性とは関わらずにLet-7の成熟化を促進していることがわかりました。

 次に研究グループは、細胞内のTruB1に標識を導入した遺伝子編集細胞を樹立し、内在性の遺伝子に直接結合するRNAを次世代シークエンサーで同定するHITS-CLIP(High throughput sequencing crosslinking immunoprecipitation)法を行ったところ、let-7の前駆体のステムループ構造に一致して結合することが明らかとなりました。これらの現象は、細胞内のみならず、試験管内や生化学的手法によっても示されました。さらに、TruB1はマイクロRNAの成熟化に中心的に関わる他の遺伝子(DGCR8)やLin28と共同、あるいは競合的に働いていることも明らかとなりました。  また、TruB1は細胞増殖を抑制しており、let-7の抑制によってその細胞増殖抑制が部分的に解除されました。このことから、TruB1-let-7系による細胞増殖への抑制機能が示唆されました。

【研究成果の意義】

 本研究では、tRNA修飾酵素の一つであるTruB1が、これまで全く予測されなかったLet-7の成熟化の促進を担っていることを突き止めました。TruB1によるLet-7の制御機構は非常に選択性が高いため、がんや発生の病態解明や治療開発につながることが期待されます。また、この制御機構は、TruB1のこれまで中心的とされてきたシュードウリジン合成酵素活性には依存していませんでした。これまでRNA修飾酵素の研究は、酵素活性を中心に着目されてきており、今回の結果は多くのRNA研究に影響を与えることが期待されます。

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【用語解説】

※1 マイクロRNA:21-25塩基長のタンパクに翻訳されない1本鎖RNA分子であり、真核生物において遺伝子の転写後発現調節に関与する。
※2 RNA結合タンパク質:RNAに結合するタンパク質であり、RNAの翻訳制御、転写後修飾、切断やRNA塩基の修飾など様々な機能を有した遺伝子が存在する。
※3 シュードウリジン:初めて同定されたRNAの修飾の一つ。ヌクレオシドであるウリジンの異性体。最近になって、タンパク質をコードするmRNAにもシュードウリジンが存在することが明らかになった。
※4 HITS-CLIP(High throughput sequencing crosslinking immunoprecipitation)法:目的のタンパク質に結合するRNAを同定する方法の一つ。ゲノムから転写された全RNAのうち、どの部位にタンパク質が結合しているのかを細胞内で捉えて、一塩基レベルで結合配列を明らかにする方法。


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