News Release

ピタバスタチンによる抗腫瘍効果の解明

既承認薬再配置を基盤とした新規がん治療戦略への期待

Peer-Reviewed Publication

Tokyo Medical and Dental University

The anticancer functions of the combination of pitavastatin and capmatinib

image: A, The relationship between the mevalonate pathway and each survival or growth pathway. B, Induction of dysfunction of the Golgi apparatus by inhibition of the mevalonate pathway. view more 

Credit: Department of Molecular Cytogenetics,TMDU

 東京医科歯科大学・難治疾患研究所・難病基盤・応用研究プロジェクト室 村松智輝助教、分子細胞遺伝分野 稲澤譲治教授らの研究グループは、既承認薬再配置 (Drug repurposing: DR)の概念をもとに、766種類の薬剤を搭載したFDA承認薬ライブラリーを用いた解析から高脂血症治療薬のピタバスタチンに抗がん作用があることを見出しました。さらに、MET阻害剤であるカプマチニブとの併用は、ピタバスタチン単剤よりも強い細胞増殖抑制効果があることを明らかにしました。この研究成果は、文部科学省新学術領域研究 (15H05908) 「がんシステムの新次元俯瞰と攻略」、文部科学省科学研究費補助金 (18K15236)、東京医科歯科大学 難治疾患研究所 難治疾患共同研究拠点・難病基盤・応用研究プロジェクト「頭頚部・食道扁平上皮癌 医療研究拠点(SCCセンター)形成」の支援のもと遂行され、米国癌学会 (American Association for Cancer Research:AACR)機関誌の一つである国際科学雑誌 Molecular Cancer Research (モレキュラーキャンサーリサーチ)に、2020年12月22日、オンライン版で発表されました。

【研究の背景】  口腔・食道扁平上皮がん (OSCC, ESCC)は、比較的リンパ節転移をしやすく、予後不良な疾患です。また、現在までにOSCC, ESCCに対する特効薬となるような抗がん剤は開発されていないため、その開発は喫緊の課題となっています。しかし、抗がん剤の開発には多くの時間や費用がかかります。近年、既に他の疾患に認可されている薬剤を異なる疾患に応用しようという取り組みである既承認薬再配置 (Drug repurposing: DR)の概念が広まりつつあり、アスピリンを代表とする複数の薬剤がその適応を拡大させています。DRのメリットはヒトでの安全性が確保されていることや作用機序が明らかとなっている薬剤を他の疾患で検討するため、開発にかかる時間や費用を大きく削減できることです。本研究は、このような背景からU. S. Food and Drug Administration (FDA)承認薬ライブラリーを用いてOSCC, ESCCに対する新規抗がん剤候補を同定することを試みました。

【研究成果の概要】  本研究では、既承認薬再配置 (Drug repurposing: DR)の概念をもとに、766種類のFDA承認薬を搭載したライブラリーと高転移性を有するOSCC細胞株 (HOC313-LM)を用いて、細胞増殖抑制効果を有する新たな抗がん剤候補の探索を行いました。その結果、ピタバスタチンが顕著にがん細胞の増殖を抑制することがわかりました。ピタバスタチンはメバロン酸経路※6を阻害する薬剤であり、脂質異常症治療薬として臨床応用されていますが、がん領域での適応はありません。ピタバスタチンは、METのプロセシングを阻害することによりMETシグナルを阻害し、ERK、AKT活性を低下させることで細胞増殖を抑制しました。また、MET阻害剤であるカプマチニブとの併用により、ピタバスタチン単剤よりも強い細胞増殖抑制効果を示しました。さらにピタバスタチンの感受性は、メバロン酸経路代謝産物であるGGPPの合成酵素であるGGPS1遺伝子の発現に依存する傾向が認められました。以上より、ピタバスタチンおよびカプマチニブとの併用は、OSCC、ESCCの新たながん治療戦略となる可能性があり、その感受性においてGGPS1の発現量が重要であることを明らかにしました。

【研究成果の意義】  本研究では、DRの概念をもとにOSCC, ESCCに対してピタバスタチンが抗がん活性を有することを明らかにしました。また、ピタバスタチンの細胞増殖抑制効果を予測するために、がん細胞中のGGPS1の発現の確認が重要であり、適用患者の層別化バイオマーカーとして利用できる可能性が示されました。さらに、細胞増殖抑制活性を向上させるピタバスタチンの併用により、MET阻害剤であるカプマチニブの抗腫瘍効果が増強されることを明らかにしました。今後、OSCC, ESCCに対するピタバスタチンを用いた新規がん治療法の開発が期待されます。

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【論文情報】

掲載誌: Molecular Cancer Research

論文タイトル: Suppression of MET signaling mediated by pitavastatin and capmatinib inhibits oral and esophageal cancer cell growth

【用語解説】

※1 既承認薬再配置 (Drug repurposing: DR): 既に他の疾患で治療薬として臨床応用されている薬剤を他の疾患に適応拡大させること。DRは、ヒトでの安全性や薬物動態が明らかになっているため開発にかかる時間や費用を削減することができる。

※2 ピタバスタチン: スタチンの一種であり脂質代謝異常症の治療薬として臨床応用されている。作用機序は、HMG-CoA Reductase (HMGCR)の活性を阻害することにより、メバロン酸経路を抑制する。

※3 MET (MET Proto-Oncogene, Receptor Tyrosine Kinase): ヒトがんにおいて、様々な遺伝子異常が発見されており、がん遺伝子として機能することが知られている。特に、遺伝子増幅やエクソン14のスキッピングの変異は、METを恒常的に活性化させがんの促進に関与する。

※4 GGPS1: メバロン酸経路の代謝酵素であり、FPPからGGPPに変換する。

※5 カプマチニブ: MET阻害剤の一つであり、2020年5月にFDAで認可された。適応は、MET エクソン14スキッピングを有する非小細胞肺がんである。

※6 メバロン酸経路: 細胞内代謝経路の一つで、コレステロールの合成やタンパク質の翻訳後修飾に関与している。

注意:本研究の成果は、細胞、マウスレベルでの実験結果であり、ヒトへの応用には様々な課題が残っています。したがって、ピタバスタチンやカプマチニブの使用に際しては、適応疾患であること用法容量を必ず順守していただくようお願い申し上げます。


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