News Release

世界初!固体表面の力分布をサブ原子スケールで3Dベクトル表示

ナノスケール物性計測技術の新展開

Peer-Reviewed Publication

Osaka University

Figure 1 Bimodal Atomic Force Microscopy

image: Bimodal atomic force microscopy provides three-dimensional force vector maps with subatomic resolution. The cantilever is simultaneously oscillated laterally and vertically to determine the vector mapping over the buckled dimers on the Ge(001) surface. view more 

Credit: Osaka University

研究成果のポイント

  • 固体表面上で働く力分布をサブ原子スケールで3Dベクトルとして観測することに世界で初めて成功
  • ナノスケール計測において物理量はスカラー量として観測されていたが、ベクトル量として観測することが可能に
  • 機能性材料や固体表面物性(磁性、電荷秩序、弾性)のナノスケール計測に新しい展開が期待

概要

大阪大学大学院工学研究科の内藤賀公助教、李艶君准教授、菅原康弘教授らの研究グループは、原子間力顕微鏡法[1]を用いて、カンチレバー探針[2]と固体表面間に働く力の表面垂直成分と水平成分を同時に取得し、力をベクトル量[3]として計測する技術を開発しました。

ナノスケール計測において、これまで“力”のような方向性を持つ物理量は、スカラー量[4]として計測されてきました。しかし、ベクトル量としては詳細に計測することができませんでした。

今回、内藤賀公助教らの研究グループは、この手法をゲルマニウム(001)表面[5]に適用することで、その表面原子上で働く力の3方向成分全てを取得し、空間的にどのように3次元(3D)力ベクトルが分布しているかをサブ原子スケール[6]で世界で初めて観測することに成功しました(図1)。

さらに、得られた3D力ベクトル分布は、スロバキア科学アカデミーのR. Turanský博士とJ. Brndiar博士とI. Štich教授らの研究グループによって理論的に考察され、この手法によって得られた力ベクトルの大きさと方向が精密に計測されたことが証明されました。これにより、表面上に発現する物性が持つ指向性をも計測することが可能となり、固体表面物性や機能性材料のナノスケール計測に新しい展開が期待されます。

本研究成果は、英国科学誌「Nature Physics」に、4月11日(火)午前0時(日本時間)にオンライン版に掲載されました。

研究の背景

学術的にだけでなくナノテクノロジーの発展において、方向性を持つ物理量、例えば磁気モーメントや、ダイポール、または2物体間に働く力などを高感度にナノスケール計測することは重要であり、また、機能性材料やデバイス特性を評価するために不可欠です。原子間力顕微鏡は、試料表面上に分布する化学結合力(弾性情報)、静電気力(電荷情報)、交換力(磁性情報)などを高感度に原子スケールで検出でき、ナノスケール物性を計測するツールとして優れています。しかし、それら物理量はこれまでスカラー量として計測されてきました。その物理量を大きさとしてだけではなく、その物性の指向性をも評価するためには、ベクトル量として高感度にナノスケール計測する技術が求められていました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究によって開発された2周波数モード原子間力顕微鏡法により,基板上で起こる化学反応やナノ構造形成に対する原子スケールの知見が得られるだけでなく、工学的に重要な2物体間における摩擦や潤滑現象について新たな見解をもたらされると期待されます。また、原子間力顕微鏡が表面電荷状態およびスピン状態にもアクセスできることを鑑みれば、この手法は機能性材料表面の原子スケールでの物性探索において大いに役立つと考えられます。

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特記事項

タイトル:“Subatomic-scale force vector mapping above a Ge(001) dimer using bimodal atomic force microscopy”

著者名:Yoshitaka Naitoh, Robert Turanský, Ján Brndiar, Yan Jun Li, Ivan Štich, and Yasuhiro Sugawara

なお、本研究は、日本学術振興会の科学研究費補助金事業(基盤研究B:26286007)と(挑戦的萌芽:15K13275)、また、大阪大学国際共同研究促進プログラム(タイプA)の一環として行われました。

用語説明

※1 原子間力顕微鏡法
原子間力顕微鏡は、力センサーであるカンチレバー探針と試料表面との間に働く力を検出する顕微鏡です。表面との間に働く力をカンチレバーが検知しながら走査することで、表面の原子配列まで観測することができます。

※2 カンチレバー探針
カンチレバーとは原子間力顕微鏡の力センサーの一つであり、その形状は長さ0.2mmほどの片持ち梁です。このカンチレバー先端には原子スケールで先鋭化された鋭い針(探針)が取り付けられています。

※3 ベクトル量
大きさ(強さ)だけでなく方向性をもつ物理量。例えば、力、運動量、電気双極子、磁気モーメントなど。

※4 スカラー量
物理量の大きさ。つまり、ベクトル物理量の場合はそのベクトルの長さを指します。大きさのみを持つ物理量である長さ、質量、エネルギー、温度などはスカラー量です。

※5 ゲルマニウム(001)表面
この表面では、隣り合う2つの原子が二量体(ダイマー)を形成します。このダイマーの結合は傾いているため非対称ダイマーと呼ばれます。この非対称ダイマーが交互に並び、c(4x2)という表面構造を呈します。

※6 サブ原子スケール
原子の大きさはおよそ0.2nm(ナノメートル)=200pm(ピコメートル)です。(1pm=10-3nm=10-12mです。)このサイズより小さい領域(200pm以下)を指します。


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