News Release

初検出された重力波の起源は原始ブラックホール?

宇宙の始まりに迫る新理論

Peer-Reviewed Publication

Kyoto University

Primordial Black Holes

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Binary black holes recently discovered by the LIGO-Virgo collaboration could be primordial entities that formed just after the Big Bang.

Primordial black hole binaries were discussed extensively in the 1990s; however, interest in them waned when observations implied that their number was limited. To date, no one has found any primordial black holes, possibly making the LIGO-Virgo observations the first of their kind. view more 

Credit: Eiri Ono / Kyoto University (K-CONNEX)

2016年の2月11日(米国時間)に米国を中心としたLIGO-Virgoチームによって発表された重力波初検出(注1)の大ニュースは、記憶に新しいところです。さらにこの重力波はおよそ太陽の30倍重いブラックホール連星(注2)が合体した時に放出されたものだと分かり、これによってブラックホール同士の連星が初めて発見されたことも大きな話題になりました。この発見以降、そんなにも重いブラックホール(以後BHと省略)がどうやって作られ、そして連星を形成したのかということに宇宙物理学研究者の大きな関心が集まってきています。太陽のような恒星は、ある程度の金属元素を含むことにより進化段階で質量放出を起こすため、太陽質量の30倍もあるBHが最終的に形成されることは難しいと考えられています。そのため、見つかったBHの起源を説明するシナリオの探索ががぜん宇宙物理学の重要なテーマとなりつつあります。例えば、宇宙で最初にできたと考えられている水素とヘリウムだけから成る初代星が、見つかったBHの起源であるという理論も提唱されています。

本共同研究チームは、今回見つかったBHは原始ブラックホール(以後PBHと省略)であるという新理論を提唱しました。PBHとは、宇宙が誕生直後でまだ非常に高温・高密度だった時期に、密度の濃淡の中でも特に濃い領域が重力崩壊(注3)を起こした結果形成するBHのことで、天体物理起源のBHとは全く異なる起源を持ちます。PBHの観測報告は今のところありません。一方、いまだ確定しておらず乱立する初期宇宙の理論モデルの中には、PBHの存在を予言するものも少なからずあるため、宇宙論研究者の間では、PBHは初期宇宙を解明する鍵として重要な研究対象となっています。

今回の研究では、特定の初期宇宙のモデルを採用する代わりに、PBHは何らかの機構で作られたという前提で、それらが宇宙初期では空間にランダムに点在していたという状況を出発点としました。これらのPBHはその後、一部が重力で引き合って連星を形成し、合体に至ります。その物理過程は、一般相対論の運動法則で記述されるので、PBHの存在量(数密度)を決めさえすれば、後は連星BHの合体頻度を予言することが可能となります。合体頻度を精密に求めるにはN体計算などの数値計算が必要となりますが、LIGO-Virgoチームによって公表された合体頻度には、観測例が少ないことに起因する約2桁の大きな不定性があることを踏まえ、今回は解析計算によって近似的な合体頻度を求めました。

隣接するPBH対の中には、確率的に平均距離よりも十分近いものが存在します。そのような対は宇宙膨張による空間の引き延ばしよりもお互いの重力の方が勝り、重力束縛系を作ります。このときもしも、このPBH対だけしかなければ、相方の方向に真っすぐに引っ張られ、正面衝突します。しかし、実際には他のPBHも存在しており、特に対から一番近い場所にあるPBHが及ぼす潮汐力の作用により、正面衝突の代わりに離心率が非常に1に近く、軌道が放物線に近い楕円軌道を持つPBH連星が形成します。離心率が非常に1に近い場合は、効率的に重力波放出が起こります。重力波はエネルギーを連星から持ち去るので、その結果連星の軌道長は小さくなります。つまり、PBH連星は、比較的素早く縮んでゆき、宇宙年齢である138億年で合体することが可能となります。

これらの物理的素過程のもとでPBH連星の合体頻度を求めることは、重さが太陽質量ほどの暗黒コンパクト天体との関連から、90年代にすでに行われていました。今回は先行研究の方法を、PBHが30倍の太陽質量を持ち、且つ暗黒物質への占める割合も小さいという場合に拡張し、合体頻度の解析公式を導きました。その公式に基づいて、PBHが宇宙に存在する暗黒物質の約千分の1を占めている仮定すると、推定合体頻度がLIGO-Virgoチームが観測結果に基づいて算出した値と、観測の統計的不定性の範囲で一致することが分かりました。この千分の1という値は、先行研究で得られた宇宙マイクロ波背景放射のスペクトル分布の観測から導かれるPBHの存在量の上限値と同程度の値になっています。ただし、この上限値は、周辺ガスがPBHへ降着する複雑な物理過程の単純化により導かれており、その値にどの程度信頼性があるのかは明らかではありません。以上のことから、発表論文では発見された連星ブラックホールの起源が、PBHの可能性があるという結論を導きました。

今回提唱したPBHシナリオでは、1)連星を形成するシンプルな物理機構が内在していること、2)形成した連星が宇宙年齢以内に合体するのに必要な離心率を連星が持つこと、の2点が自然に実現しているため、非常に魅力的なシナリオとなっています。今後、重力波や宇宙マイクロ波背景放射の観測データがさらに蓄積してくることで、今回提唱したシナリオが正しいことを確認できれば、初期宇宙の理解が一段と深まると期待されます。

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