News Release

ナノグラフェンを水に溶かす技術で☺分子膜作製に成功

Peer-Reviewed Publication

Kumamoto University

ナノグラフェンを取り込んだミセル型カプセルの作製方法

image: ナノグラフェンとV字型(両親媒性)アントラセン分子を室温で粉砕・混合するだけで,「ナノグラフェンを取り込んだミセル型カプセル」が容易に作製可能 view more 

Credit: Associate Professor Soichiro Yoshimoto

熊本大学と東京工業大学の研究者らが、溶媒に溶けにくいナノグラフェンの水溶化に成功しました。水に溶けない分子をカプセル内に取り込む「分子コンテナ」を活用することで、液体をかき混ぜるだけでナノグラフェン分子膜が作製できます。次世代の機能性ナノ材料の作製や分析への応用が期待されます。

炭素原子がシート状に配列したグラフェンは金属よりも軽く優れた電気特性を有しているため、次世代の電子材料として注目されています。中でも長さや幅がナノサイズで規定された「ナノグラフェン」は、その構造が無限に広がるグラフェンとは違った物性を示す可能性があります。ナノグラフェンは有機半導体や分子デバイスの材料として期待されていますが、ナノグラフェン分子群はあらゆる溶媒に溶けにくい性質で、基礎物性の十分な理解が進んでいませんでした。

水に溶けにくい物質を水に溶かす方法の一つとして、ミセルを利用する方法があります。代表的なミセルである石けんは、親水性と疎水性の両方の性質を持つ分子が主成分となっていて、水で泡立てると油性の汚れを疎水性の内側に包み込み、外側の親水性の部分が水に馴染んで流れていきます。東京工業大学の吉沢准教授は、この性質を利用して両親媒性分子から構成されるミセル型カプセルを開発しました。熊本大学の研究者らはこのミセル型カプセルを溶解度の限界に直面していたナノグラフェン化合物群へ展開しました。

この手法は、特定の化学構造(アントラセン構造)から成るミセル型カプセルを分子コンテナとして利用するもので、分子間にはたらく相互作用を巧みに利用して不溶な分子を効率よくカプセル内に取り込みます。ミセル型カプセルは卵の殻のような役割を果たしており、卵の黄身に相当する疎水性の高いナノグラフェン分子はカプセルに包まれた状態で水中の基板表面近傍まで輸送されます。ミセル型カプセルは酸性水溶液中で分子集合状態の変化(平衡関係)が起こっており、これに伴い内部に取り込まれているナノグラフェンがカプセル内部から飛び出し、水には溶けきれず基板へ吸着・組織化することで安定化します。

物質の表面を原子レベルで解像する「電気化学走査型トンネル顕微鏡」で金電極表面を調べたところ、実験に用いた3種類のナノグラフェン分子(オバレン、サーコビフェニル、ジコロニレン)がそれぞれ2次元組織化した様子の分子スケール解像に世界で初めて成功しました。画像から、基板へ吸着した分子が規則正しく並び、高配向な分子膜が形成されている様子がわかります。

本研究で見出した「分子コンテナ法」により、これまで溶解が困難であったナノグラフェンの水溶化とその2次元組織化に成功し、限界に直面していた分子膜作製に留まらず、ナノグラフェン科学の新たな扉を開きました。この手法は、ナノグラフェンを水溶化できるため生体や環境への影響が懸念される有機溶媒を用いる必要がなく、実験者のみならず地球環境へも優しい技術としても注目されます。

研究を主導した吉本惣一郎准教授は次のようにコメントしています。 「2016年、熊本大学は熊本地震発生により困難に直面しました。この時東京工業大学が熊本大学の学部4年生を特別聴講生として受け入れ、そこから本共同研究がスタートしました。本研究成果は非常事態における東京工業大学の迅速な対応・連携により結実した成果です。本手法はさらに巨大な構造を有する分子群にも適用が可能で、基礎物性の更なる解明をはじめ分子の精密設計により分子ワイヤ、新しい電池材料や薄膜結晶成長への展開が期待されます。」

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本研究成果は、科学ジャーナル「Angewandte Chemie International」に平成30年10月23日に掲載されました。

[Source]

Origuchi, S. et al., 2018. A Supramolecular Approach to the Preparation of Nanographene Adlayers Using Water-Soluble Molecular Capsules. Angewandte Chemie International Edition. Available at: http://dx.doi.org/10.1002/anie.201809258.


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