News Release

明らかになった幻の流星群の構造と親天体の活動度

〜第1次南極地域観測隊の発見から58年ぶりの観測

Peer-Reviewed Publication

National Institutes of Natural Sciences

Time-lapse Photography of Phoenicid Meteor Shower

video: Made from all sky images taken continuously from 23h14m to 26h48m UT, Dec. 1, 2014. The meteors appearing at 0:20, 0:46, 0:57, 1:18, 1:38, 1:42 belong to the Phoenicid meteor shower. The central bright spot is the Moon, and long lines of light moving upward or downward are airplanes. Camera: Pentax K-3 + SIGMA 4.5mm F2.8, each exposure 3 seconds, at Sandy Point, North Carolina, U.S.A.. (Photos: Hiroyuki Toda) view more 

Credit: NAOJ

【研究背景】  

太陽を公転している天体には、8大惑星以外に、点状にしか見えない「小惑星」や、太陽に近づくと表面から自らの物質を放出して広がった姿を見せる「彗星」があります。彗星と小惑星は必ずしも別種の天体ではなく、最初は彗星としてダストやガスを放出していたものが、次第に揮発性物質を失って、ついには小惑星となる場合があると考えられています。しかし、この過程には長い年月がかかり、また彗星は太陽からの距離が遠い時期には観測できないことから、その歴史を探ることは困難です。

 今回は、この難問に流星群の観測という視点で挑みました。用いた流星群は、第1 次南極地域観測隊が発見した幻の流星群「ほうおう座流星群」です。1956 年に日本を出発した第1 次南極地域観測隊は、インド洋上で、それまで未観測の活発な流星群に遭遇しました。これが「ほうおう

座流星群」です。ところが、それ以降この流星群はほとんど出現がありませんでした。

 それぞれの流星群は、ひとつの親天体から放出された流星体の帯(ダスト・トレイル)が、地球の大気に飛び込むものです。親天体のほとんどは彗星であると考えられています。彗星から放出された流星体は、親天体の彗星とほぼ同じ軌道で運動をしつつ、ゆっくりと彗星から離れ、ダスト・トレイルとして広がっていきます。近年ダスト・トレイル理論が高度になり、流星体が親天体の彗星から、いつ、どのような速度や方向に放出されたか等の条件を仮定してモデル計算をすることで、流星群の出現状況の再現や出現の正確な予報ができるようになりました。  

「ほうおう座流星群」の親天体であるBlanpain 彗星は、1819 年に発見された公転周期5.32年の彗星です。発見時には約6 等星の明るさで彗星としての活動を見せていましたが、その後長い間行方不明でした。ところが2003 年、地球に接近する約14 等星の小惑星が発見され、軌道からBlanpain 彗星であることが判明しました。この間、彗星としての活動はごく弱かったため、観測されなかったのです。1956 年のほうおう座流星群の大出現は、1819 年の発見時に放出されたダストが地球にぶつかったものであることもわかりました。  

この天体が彗星として観測されなかった20 世紀初頭に、わずかながらでもダストを放出していたならば、このダストが2014 年12 月に地球に遭遇して流星群として出現することがダスト・トレイル理論により予報されました(1, 2)。すなわち、この天体が20 世紀初頭に彗星として活動していたかどうかは、2014 年に流星群として観測されるかどうかで分かります。また、流星群の流星出現数から、彗星の活動度の大きさを推定することも可能です。すなわち、ダスト・トレイル理論と流星群観測から親天体である彗星の歴史を探ることができるわけです(3)。

【研究内容】

藤原氏らの研究グループは、流星群の輻射点(注1)位置や出現時刻などの予報から、観測条件が良好な米国ノースカロライナ州に遠征して、7 台の高感度ビデオカメラ(注2)と2 台のデジタルカメラで観測を行いました。観測は、現地時間の17 時半過ぎから23 時まで実施されました。9 台のカメラで、総計138 個の流星を観測し、その内29 個が「ほうおう座流星群」に属すると判断しました。  

「ほうおう座流星群」の観測流星数の1 時間ごとの変化からは、予報された流星群の出現ピークの19-20 時台に極めて近い、20 時台から21 時台に流星出現のピークがあったことがわかりました。また、観測された流星群の輻射点の位置は、予報と合致し、その空間的広がりも約1 度と非常に小さく観測されました。  

これらの結果より、今回出現した「ほうおう座流星群」は、予報されていたとおり、20 世紀初頭に親天体から放出されて形成されたダスト・トレイルによるものであることが明らかになりました。また、観測された流星数は、親天体の活動度を18 世紀頃と同じと仮定した場合の10%以下でした。すなわち、2014 年の観測結果より推測される親天体の20 世紀初頭の活動状況は、流星物質は放出していたけれどもその量は大きく低下しており、18 世紀中ごろから19 世紀初頭の1/10 にも満たないものであったと推定されます。

 佐藤天文担当職員らのグループは、西アフリカ沖のスペイン領ラパルマ島に遠征しましたが、悪天候で充分な観測はできませんでした。しかし、現地での晴れ間からの眼視観測によって同様な結論を得るとともに、定常的に実施している米国NASA のビデオカメラによる流星観測網や、カナダの西オンタリオ大学のレーダー観測から得られた結果を解析しました。その結果、観測から得られた「ほうおう座流星群」の軌道がダスト・トレイルからの予報値に一致していることを明らかにしました。

 2グループの研究の結果、1956 年と2014 年の流星群の活動度を比較から、親天体であるBlanpain 彗星は、20 世紀初頭には地球からは彗星として観測されなかったものの、弱いながらも彗星としての活動を行って流星群のもとになるダストを放出していたことが明らかになりました。この結果は、彗星、小惑星、流星体等の太陽系小天体の相互関係や進化を研究する上で重要な知見となります。なお、再観測に成功したことは2014 年に観測成功の速報報道がありましたが、本研究では同観測データの解析成果について報告しています。

【今後の展望】

本研究は、彗星の活動度の変遷を、その彗星を親天体とする流星群の活動から推定するという手法を適用した最初の事例です。本手法は、彗星・小惑星・流星体の相互関係の解明のみならず、彗星の物理的な進化についてのさらなる理解にも役立つと期待されます。藤原氏は「今後この手法を、母天体が彗星としての活動をほとんど示さない流星群に活用し、太陽系小天体の変遷を明らかにしていきたい」と意気込みを語っています。

 藤原氏らの研究は日本天文学会欧文誌「Publications of the Astronomical Society of Japan」に、佐藤天文担当職員らの研究は学術誌「Planetary and Space Science」に掲載されます。

【注】

注1:輻射点:流星群に属している流星は、ほぼ同一軌道を運動しているため、地球にぶつかると天球上の1 点から放射状に流れるように見えます。この点を輻射点といいます。流星群は、一般に輻射点のある星座名、あるいは輻射点の近くの恒星名で呼ばれます。

注2:この中の超高感度ハイビジョンビデオカメラの画像は、NHK コズミックフロント取材班が、番組「コズミックフロント」で使用するために撮影したものの提供を受けました。

【文献】

1. Watanabe, J., Sato, M. & Kasuga, T., 2005, PASJ, 57, L45

2. Sato, M., & Watanabe, J., 2010, PASJ, 62, 509

3. Watanabe, J., & Sato, M., 2008, Earth, Moon, and Planets, 102, 111

4. Tsuchiya, C., Sato, M., Watanabe, J., Moorhead, A. V., Moser, D. E., Brown, P. G., & Cook, W. J., 2017, PSS, 143, 142

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