News Release

植物の受精卵が偏る仕組みを発見

〜細胞骨格がダイナミックに変化する様子の観察に成功〜

Peer-Reviewed Publication

Institute of Transformative Bio-Molecules (ITbM), Nagoya University

Schematic Diagram of How Plant Cells Undergo Asymmetric Cell Division

image: Upon fertilization of the egg cell, the contents within the zygote are distributed unevenly (polarization), followed by asymmetric cell division, where the top daughter cell is small and the bottom cell is large. The top cell develops into a shoot, whereas the bottom part grows into a root. view more 

Credit: ITbM, Nagoya University

名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(ITbM)(同理学研究科兼任)の植田 美那子特任講師、佐藤 良勝特任講師、東山 哲也教授、理学研究科の木全 祐資(大学院生)、 栗原 大輔特任助教、山田 朋美(技術補佐員)、東京大学の桧垣 匠特任准教授、馳澤 盛一郎教授、ケンタッキー大学(米国)の河島 友和准教授、グレゴールメンデル研究所(オーストリア)のFrederic Berger教授の研究グループは、植物の受精卵が非対称になる(細胞内に上下の偏りを作る)様子を捉えることに初めて成功しました。  

植田特任講師らの研究グループは、受精卵の内部構造をリアルタイムで観察した結果、受精すると細胞内にある繊維(細胞骨格)の並びがいったん崩れ、次第に別の方向に並び直すことを発見しました。また、この並びによって受精卵が非対称に分裂できることも分かりました。今回の発見は今後、植物の形作りの仕組みを解明する糸口になると期待されます。  

本研究成果は、米国の科学専門誌Proceedings of the National Academy of Sciencesのオンライン版において公開されました。

【本研究のポイント】

  • 植物の受精卵が非対称になる様子をリアルタイムで観察することに初めて成功した。
  • 受精すると未受精卵の極性が一度失われ、受精卵が再び極性を確立するという動態を明らかにした。
  • 二種類の細胞骨格が異なるパターンで並ぶことで、受精卵が非対称に分裂できることを発見した。

【研究の背景と内容】  

植物の形は複雑で、花や葉だけでなく根や茎など、さまざまな器官を作ります。その形作りの基礎となるのが「体軸」という、上下や左右、前後といった方向性です。多くの植物は同心円状(筒型)の形をしているので、最も重要な体軸は上下軸となります。つまり、まず上下軸を決めたあと、上方向には花や葉を作り、下方向には根を伸ばす、という形作りです。この上下軸は、植物の元になる最初の細胞である受精卵が上下に分かれる(分裂する)ことで確定します(図1)。このとき、受精卵はまず細胞内に偏りを作り(極性化注1)、その結果、上側の小さな細胞と下側の大きな細胞を生み出すという、非対称な分裂を行います。この受精卵の非対称分裂注2は、藻類からコケ植物、被子植物にいたるまで、ほとんどの植物で共通して見られることから、受精卵の極性化と非対称分裂は、植物の上下軸を作る根源的な仕組みだと考えられます。しかし、受精卵はどのように極性を生みだし、どうやって非対称に分裂するのかについては、これまで分かっていませんでした。

 今回、名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所の植田 美那子特任講師らの研究グループは、植物の受精卵の内部構造をリアルタイムで観察することで、受精卵の内部にある二種類の繊維状構造(細胞骨格注3)がそれぞれ特定の方向に並ぶ(配向する)ことで、受精卵が極性化し、非対称に分裂できることを初めて発見しました。その二種類の繊維状構造とは、微小管注4とアクチン繊維注5と呼ばれる、植物と動物に共通した細胞骨格です。それぞれ、チューブリンとアクチンというタンパク質が紐状に連なった構造体で、どちらも細胞内の形や内部構造を支える重要な働きを持っています。

受精卵内部の微小管とアクチン繊維のリアルタイム観察  

植田特任講師らの研究グループでは、実験に適したモデル植物であるシロイヌナズナを使って、微小管に蛍光タンパク質でマーカー(目印)をつけて、未受精卵と受精卵の内部で微小管の配向がどのように変化するかをリアルタイムで観察しました(ライブイメージング)。その結果、受精する前には上下軸に沿って並んでいた微小管が、受精するとバラバラになることを発見しました(図2)。次いで、リング状の構造が現れ始め、受精卵はこのリング構造を保ったまま細長く伸びることが分かりました。その後、微小管は核の近くに集まり、染色体を分配して細胞分裂が完了します(図2)。

また、アクチン繊維の並びも、受精するとバラバラになることが分かりました(図3)。アクチン繊維は次第に上下軸に沿って並び始め、また、上部の先端ではキャップ状に蓄積します。

 これらの観察結果から、受精すると微小管とアクチン繊維の配向はともに崩壊し、その後、両者はそれぞれのパターンで並び直すことが明らかになりました。このように、植物の受精卵が非対称になっていく様子をリアルタイムで捉えることに世界で初めて成功しました。また、細胞骨格だけでなく、受精卵が細長く伸びる様子や、核が上方向に移動する様子など、さまざまな変化を捉えることができました。

さらに、観察されたさまざまな変化について、数値化して比較するため、受精卵が極性化する過程での細胞骨格のパターンを画像解析しました。微小管とアクチン繊維について、平均角度や密度などを詳細に解析した結果、受精直後には繊維の向きがバラバラになることや、微小管がリング状の構造を作ること、アクチン繊維が上下軸に沿って並ぶことなど、ライブイメージングで見出された変化を定量的に確認することができました。

微小管とアクチン繊維を阻害した際の受精卵の極性

 微小管とアクチン繊維は異なったパターンで並んでいたことから、これらは受精卵で異なる役割を担っているのではないかと考えられました。そこで、それぞれの役割を知るために、微小管とアクチン繊維を特異的に壊す(阻害する)薬剤を投与し、そのときに受精卵の極性化や非対称分裂にどのような影響が出るかをライブイメージングして調べました(図4)。その結果、微小管を阻害すると、受精卵が細長く伸びることができず、上部が球に近い肥大した形になりました。一方、アクチン繊維を阻害すると、核が上方向に移動することができず、受精卵の中央付近に留まりました。その結果、核が留まった場所で細胞分裂し、上側と下側の細胞の大きさがほとんど同じという対称分裂になりました。つまり、微小管は受精卵を上下軸に沿って伸ばす役割があり、アクチン繊維は核を上方向に移動させることで、細胞分裂を非対称にする役割を担うことが分かりました。

【まとめと今後の展望】

 本研究では、植物の受精卵が極性化する様子をリアルタイムで観察することに世界で初めて成功し、微小管とアクチン繊維という二種類の細胞骨格が、受精卵の非対称分裂にそれぞれ異なる役割を果たすことを発見しました(図5)。ほとんどの植物の受精卵が非対称に分裂することから、本研究が明らかにした仕組みは、多くの植物に共通した普遍的な機構であると期待されます。また、受精卵は植物体の全ての元となる最初の細胞なので、本研究を発展させて、植物の体軸が作られる仕組みをより詳細に解明することで、植物の形作りをさらに深く理解できると考えられます。

###

【用語解説】

注1:極性化
細胞の内部にある物質や構造体を特定の場所に集めることで、細胞内を不均一にすることです。そうしてできた内部の偏りを極性と呼びます。

注2:非対称分裂
一般的な細胞分裂では、生じた二つの細胞の大きさや働きは同じですが、違う性質をもった細胞を生み出す細胞分裂もあり、これを非対称分裂と呼びます。一般的に、非対称に分裂する細胞は、分裂する前にすでに内部に偏り(極性)を持っています。

注3:細胞骨格
細胞質内に存在する繊維状の構造体で、タンパク質がひも状に連なったものです。細胞の枠組みとして細胞の形を保つ働きや、細胞内の道路として物質を運ぶ働きがあります。細胞骨格には、微小管・アクチン繊維・中間径フィラメントがありますが、植物で主に使われているのは微小管とアクチン繊維です。

注4:微小管
細胞骨格の一つで、チューブリンというタンパク質が連なった繊維状の構造体です。植物では、細胞を取り巻くように並んでおり、細胞の枠組みとして細胞の強度を保つ働きがよく知られています。また、細胞が分裂する際には、染色体にとりついて反対方向に引っ張ることで、染色体を二つに分ける機能もあります。

注5:アクチン繊維
細胞骨格の一つで、アクチンというタンパク質が連なった繊維状の構造体です。細胞の形を保ったり、細胞内で物質を運ぶ通路として使われたりと、さまざまな働きがあります。また、細胞骨格の中で最も細く、マイクロフィラメントとも呼ばれます。

【掲載雑誌、論文名、著者】

掲載雑誌: Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS)
論文名: Cytoskeleton dynamics control the first asymmetric cell division in Arabidopsis zygote    
(細胞骨格の動態がシロイヌナズナ受精卵の最初の非対称分裂を制御する)
著者: Yusuke Kimata, Takumi Higaki, Tomokazu Kawashima, Daisuke Kurihara, Yoshikatsu Sato, Tomomi Yamada, Seiichiro Hasezawa, Frederic Berger, Tetsuya Higashiyama and Minako Ueda
(木全祐資(きまた ゆうすけ)、桧垣匠(ひがき たくみ)、河島友和(かわしま ともかず)、栗原大輔(くりはら だいすけ)、佐藤良勝(さとう よしかつ)、山田朋美(やまだ ともみ)、馳澤盛一郎(はせざわ せいいちろう)、Frederic Berger、東山哲也(ひがしやま てつや)、植田美那子(うえだ みなこ))
DOI: 10.1073/pnas.1613979113 (http://dx.doi.org/10.1073/pnas.1613979113)

【研究費】

科研費
新学術領域 「ゲノム・遺伝子相関」(JP24113514・JP26113710)
新学術領域 「植物細胞壁機能」(JP24114007)
新学術領域 「環境記憶統合」(JP15H05962・JP15H05955)
新学術領域 「植物新種誕生原理」(JP16H06465・JP16H06464・JP16K21727)
若手研究(A)(JP25711017)
若手研究(B)(JP24770045・JP26840093)
基盤研究(B)(JP16H04802)
挑戦的萌芽(JP16K14753・JP15K14542)
ERATO委託研究(JP25-J-J4216)
ERA-CAPS grant(2163 B16)

【本件お問い合わせ先】

名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所 (ITbM)
ホームページ: http://www.itbm.nagoya-u.ac.jp

<研究内容>
名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所 (ITbM)
植田 美那子
TEL: 052-747-6402
E-mail: m-ueda@itbm.nagoya-u.ac.jp

<報道対応>
名古屋大学ITbMリサーチプロモーションディビジョン
宮? 亜矢子・佐藤 綾人
TEL: 052-789-4999 FAX: 052-789-3053
E-mail: press@itbm.nagoya-u.ac.jp

名古屋大学総務部広報渉外課
TEL: 052-789-2016 FAX: 052-788-6272
E-mail: kouho@adm.nagoya-u.ac.jp

WPI-ITbMについて

文科省の世界トップレベル拠点プログラム(WPI)の一つとして採択された、名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(ITbM)は、従来から名古屋大学の強みであった合成化学、動植物科学、理論科学を融合させることで研究を進めております。ITbMでは、精緻にデザインされた機能をもつ全く新しい生命機能の開発を目指しております。ITbMにおける研究は、化学者と生物学者が隣り合わせで研究し、融合研究を行うミックス・ラボという体制をとっております。このような「ミックス」をキーワードに、化学と生物学の融合領域に新たな研究分野を創出し、トランスフォーマティブ分子を通じて、社会が直面する環境問題、食料問題、医療技術の発展といった様々な議題に取り組んでおります。


Disclaimer: AAAS and EurekAlert! are not responsible for the accuracy of news releases posted to EurekAlert! by contributing institutions or for the use of any information through the EurekAlert system.