News Release

ヒトiPS細胞から多発性嚢胞腎の病態を再現することに成功

遺伝性腎疾患である多発性嚢胞腎の病態解明や新規治

Peer-Reviewed Publication

Kumamoto University

Collecting Ducts

image: Collecting ducts derived from iPS cells with the homozygous PKD1 gene mutation strongly reacted with forskolin to form cysts. Collecting ducts derived from iPS cells with the heterozygous PKD1 gene mutation, as well as those derived from patient iPS cells, formed cysts, although partially. view more 

Credit: Professor Ryuichi Nishinakamura

熊本大学の研究グループは、共同研究によりヒトiPS細胞から常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)の病態を試験管内で再現することに成功しました。ADPKDは両側の腎臓に多発性の嚢胞が発生する病気で、最も頻度の高い遺伝性腎疾患です。腎臓の尿細管由来の嚢胞は再現されていましたが、より病態に近い集合管由来の嚢胞の誘導再現に成功したのは初めてです。本研究成果が病態の解明や新しい治療法の開発につながることが期待されます。 

ADPKDは最も頻度の高い遺伝性腎疾患(400-1,000人に1人)です。ADPKD患者の半数は60歳までに腎不全へ進行しますが、病気の詳細なメカニズムはいまだに解明されておらず、根本的な治療法も見つかっていません。ADPKDの原因はPKD遺伝子の変異で、父親と母親から1つずつ受け継ぐPKD遺伝子のうち、片方(ヘテロ)もしくは両方(ホモ)の遺伝子に変異(ヘテロ変異、ホモ変異)があると発症します。PKD遺伝子にはPKD1遺伝子とPKD2遺伝子があり、ADPKD患者の約85%はPKD1遺伝子のヘテロ変異、残りの約15%はPKD2遺伝子のヘテロ変異によって引き起こされます。PKD1遺伝子のヘテロ変異を持つ患者の方がより重症な経過をたどり、腎嚢胞の進行によって60歳までに約半数が腎不全となります。ADPKDのメカニズムは、これまで主にマウスを使って研究されてきましたが、PKD1遺伝子のヘテロ変異を持つマウスでは、成体になってもわずかに腎嚢胞がみられる程度でヒトの症状を再現することができていませんでした。

腎臓はネフロン前駆細胞と尿管芽と呼ばれる2つの前駆細胞集団が相互作用することによって発生し、ネフロン前駆細胞は尿中の塩分・水分の再吸収を行う尿細管などへ、尿管芽は尿細管からの尿を集めて更に水分の再吸収を行う集合管へと分化していきます。ADPKDの嚢胞は腎臓内の尿細管や集合管から発生しますが、集合管から生じた嚢胞が主体と言われています。2014年にヒトiPS細胞からネフロン前駆細胞を経由して尿細管等を誘導する方法が、西中村教授らの研究グループから報告されました。その後、いくつかの研究グループがPKD1遺伝子のホモ変異を持ったiPS細胞から尿細管由来の嚢胞を再現することに成功しましたが、集合管由来の嚢胞については再現できていませんでした。また、これまでの方法では、遺伝子変異のない正常なiPS細胞からも嚢胞が形成されてしまい、PKD1遺伝子のヘテロ変異を持つADPKD患者由来のiPS細胞から病態を再現することもできていませんでした。一方、西中村教授らの研究グループは2017年にヒトiPS細胞から尿管芽を経由して集合管を誘導する方法を開発しました。そこで今回は、この方法を利用して、集合管由来の嚢胞を再現することを目的としました。

ADPKDの嚢胞を再現するために、CRISPR-Cas9という遺伝子編集技術を使って、両方のPKD1遺伝子に変異を持つホモ変異iPS細胞と片方のPKD1遺伝子にのみ変異を持つヘテロ変異iPS細胞を作成しました。まずは、これらのiPS細胞から尿細管へと誘導しました。これにADPKDの嚢胞を増悪させる因子を活性化するフォルスコリンという薬剤を投与すると、これまでの報告と同様に尿細管嚢胞が再現されました。但し遺伝子変異のない尿細管からも軽度の嚢胞が形成されてしまいました。

次に、集合管に誘導してフォルスコリンを投与したところ、PKD1ホモ変異を持つ集合管から嚢胞が形成されました。一方、遺伝子変異のない集合管からは嚢胞が形成されず、フォルスコリンへの反応性が尿細管とは異なるということが分かりました。さらに、集合管に作用するホルモン「バゾプレッシン」の受容体の発現を確認したところ、集合管でのみ発現していることが分かりました。ADPKDではバゾプレッシンが集合管由来の嚢胞を増悪させることが分かっています。そこで、誘導した集合管および尿細管にバゾプレッシンを投与したところ、低頻度ながらPKD1ホモ変異を伴う集合管だけで嚢胞が形成されることが確認されました。また、PKD1ヘテロ変異を伴う集合管からもフォルスコリンを投与することで一部に嚢胞が形成されました。そこで、PKD1遺伝子にヘテロ変異を持つADPKD患者から作成されたiPS細胞を使って集合管を誘導したところ、同様に嚢胞が形成されることが分かりました。これは患者由来のiPS細胞から病態を再現することに成功した初めての報告となります。

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西中村教授は次のようにコメントしています。

「本研究は、iPS細胞から集合管を誘導する手法がADPKDに対する新しい疾患モデルになり得ることを示したものです。実際の臨床に近い集合管の嚢胞を解析することで、これまで難しかったメカニズムの解明や新しい治療法の開発につながる可能性があります。また、患者由来iPS細胞からの再現にも成功したことで、個々の症例に対する研究や治療へとつながることも期待されます。」

本研究成果は、学術雑誌誌「Journal of the American Society of Nephrology」に令和2年8月3日に掲載されました。

[Source]

Kuraoka, S., Tanigawa, S., Taguchi, A., Hotta, A., Nakazato, H., Osafune, K., � Nishinakamura, R. (2020). PKD1-Dependent Renal Cystogenesis in Human Induced Pluripotent Stem Cell-Derived Ureteric Bud/Collecting Duct Organoids. Journal of the American Society of Nephrology, ASN.2020030378. doi:10.1681/asn.2020030378


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