近年、日本は毎年のように極端な降水によって大きな被害を受けており、その頻度は年々増加しています。このような現象を理解し、降水量を予測するとともに、地上に降った雨水がいつどこにどの程度集まり、どれほどの規模の被害をもたらすのかを予測・監視することも、社会インフラを維持する上で極めて重要です。
このような現象の解明と被害の軽減を目指し、東京大学 生産技術研究所(以下、東大生研)と宇宙航空研究開発機構 地球観測研究センター(以下、JAXA/EORC)の共同研究グループは、全球陸上の水循環に関わる物理量(土壌中の水分量や河川流量など)を統合的に推定するシミュレーションシステム「Today’s Earth - Global」(以下、TE-Global)を開発・運用してきました。TE-Globalには東大生研のシミュレーション技術と、JAXA/EORCの衛星観測データ・解析技術がそれぞれ活かされており、緯度経度0.5度格子(約50㎞格子)、河川については0.25度格子(約25㎞格子)で陸上の様子をモニタリングすることができます。しかし、日本の河川流域など、より細かな限られた領域を見るためにはさらに高い解像度が求められていました。
そこで今回、このTE-Global を基に、日本の国土を対象とし、緯度経度1/60度格子(約1㎞格子)の解像度で水循環を推定するシステム「Today’s Earth - Japan」(以下、TE-Japan)を新たに開発しました。TE-Japanでは50種類を超える陸上の水循環に関わる物理量を推定していますが、そのうち主要なものである土壌水分量や河川流量などは、実際の現場観測値との比較検証が行われており、高い相関が確認されましたので、11月29日(金)よりデータの公開を開始しました( https://www.eorc.jaxa.jp/water/ )。
公開データや画像を利用して、詳細な河川流量や氾濫域の推定結果をどなたでも無償でご利用いただけます。現状、TE-Japanは実時間より約1日遅れで運用中ですが、今年度中にリアルタイム(時間遅れ無し)での提供を予定しています。また、令和元年の台風19号の事例では、TE-Japanを用いて実験的に予測シミュレーションを行いました。現状TE-Japan ではあくまで自然状態での水の動きを計算しているため、ダム操作や詳細な堤防の効果といった人為的水管理の影響などは含まれていませんが、それでも大きな被害が報告された千曲川など多くの地点において、洪水発生に相当する危険情報を算出できていることを確認しました。
こうした予測情報については、今後内閣府SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)第二期の研究課題の1つである「国家レジリエンス(防災・減災)の強化」の枠組みにおいて、防災科学研究所が中心となって開発する、衛星等の観測立案計画を最適化するための災害発生場所推定システムなどに利用されることとなっております。今後は、より精度の高い情報の提供を目指し、システムの高度化を進めていきます。
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