News Release

白色線で縁取ると赤色になる

同時色対比に関わる100年間の矛盾を解明した新しい色錯視

Peer-Reviewed Publication

Toyohashi University of Technology (TUT)

Discovered visual illusion

image: While a red line can be seen in (A) due to an visual illusion, the line is actually gray. See the enlarged diagram. The difference is a contour formed from white lines. Once removed, it appears gray (B). view more 

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<概要>

豊橋技術科学大学 情報・知能工学系とエレクトロニクス先端融合研究所の研究チームは、新しく発見した色錯視を通じて100年間にわたる同時色対比の理論の矛盾を解明しました。人を対象とした心理実験により一見矛盾する現象が白色線の縁取りの有無によって切り替え可能であることを明らかにし(図1)、一貫した説明を可能にしました。この解明によって色の見えに関わる視覚計算理論は改正され、高精細な画像表現や産業デザインに貢献することが期待されます。

<詳細>

ヒトは外界を正しく見ているように思えますが、実際には同じ形や色が違うものに見えてしまうことがあります。これを錯視と言います。色に関する錯視は古くから知られており、19世紀には織物の染色に起こったクレームの原因が色錯視にあったことをフランスの化学者が解明しています。このように錯視は製品の外観に強く影響することがあり、デザイナーらは経験的に錯視を回避していました。一方で、錯視はヒトの視覚機能の失敗ではなく、本来の重要な機能の副作用として生じているという考えがあります。つまり多少錯視が生じるとしても、外界を効率的に見るための機能がその背景にあることが多いのです。新しい錯視を発見することは視覚機能の未知な機能を新たに発見すること同義であり、多くの視覚研究者が研究に取り組んでいます。

色が変わって見える錯視で最も有名なものが同時色対比です。同時色対比とは同じ灰色の線を見ても背景の色によって見えが変わってしまう現象で、背景の色と逆の色に色づきます。同時色対比は照明の色を補正する色恒常性の重要な要素と考えられています。同時色対比は影響を受ける灰色線の明るさによって効果が変わることが知られていますが、どの明るさで変化が強く生じるかは二つの互いに矛盾する理論が知られています。それは、背景と等しい明るさで最も強く生じるというキルシュマンの第三法則と、暗いほど強く生じるというヘルソン・ジャッド効果です。これらは心理学と照明工学という異なる研究分野でそれぞれ確認されている現象でした。

ここで私たちは色に関する新しい錯視を発見し、この錯視を通じて上記の矛盾を解決できる可能性に気づきました。発見された錯視はシアン色背景上の非常に細い灰色線が白色の細い線で縁取られると赤色に見えるという現象です。この錯視は世界錯視コンテストにて報告されBest Illusion of the Year 2018でTop10 Finalistとして入賞するなど、注目されてきました(図2)。人を対象とした精密な心理実験によって、錯視は灰色線の明るさによらず強い色対比が生じ、相対的に暗いほど錯視効果が強くなることを明らかにしました。これはヘルソン・ジャッド効果に相当します。一方で白色線を外すと錯視効果は等輝度で強く、キルシュマンの法則を再現していました。つまり二つの矛盾する現象は白色線の有無によって切り替え可能だったのです。隣接する白色線は色同化という異なる現象を灰色線に誘導していたと考えることで一貫した説明が可能となりました。以上により、およそ100年間に渡る色錯視研究に存在していた矛盾を解明することに成功しました。

「この新しい色錯視は、灰色線がどのような明るさであっても非常に強い錯視効果を発生しました。これは、これまで通説とされてきた1891年の色錯視研究と反しています。私たちは色恒常性と呼ばれる別の知見を本錯視に導入することによって、視覚系に備わる同時色対比の真の性質を引き出すことに成功したと考えています。さらに、私たちが新たに考案したモデルによって過去の研究を含めた一貫した説明が可能になります。」と筆頭著者である兼松圭(情報・知能工学専攻 博士後期課程2年,日本学術振興会 特別研究員DC2)は説明します。

<開発秘話、エピソード>

筆頭著者の兼松圭はこの錯視が発見されたのは本当に偶然だったと言います。「共著者の一人である鯉田孝和(エレクトロニクス先端融合研究所 准教授)が別の実験データの図を水色と青色の線で描いたときに、使っていないはずの紫色が見えると言いました。鯉田准教授は当初、色収差という光学現象だと思い込んでいたそうです。私は紫色に見える部分の特徴を精密に分析し、新しい錯視であることを証明しました。またこの錯視は非常に細い線が必要であることもわかっています。現代の非常に細かくて高性能なモニターがなければ発見することは出来なかったかもしれません。この錯視を通じて、工学の発展が基礎科学のさらなる発展に寄与した瞬間に立ち会うことが出来ました。」

<今後の展望>

研究チームは、色錯視の現象を示すこの錯視の計算モデルを組み立てる必要があると考えています。錯視の発生には視覚神経細胞の計算が関与しており、錯視を説明する細胞ネットワークを検討することは脳機能の理解に繋がるとともに、テキスタイルなどの産業デザインや、高精細化されるデジタル機器の画面デザインにおいてユーザーが受け取る印象を推定するのに役立つと考えています。

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<文献情報>

Tama Kanematsu and Kowa Koida (2020). Large enhancement of simultaneous color contrast by white flanking contours. Scientific Reports, 10(1):20136. https://doi.org/10.1038/s41598-020-77241-5

本研究は文部科学省 科研費 新学術領域研究「多元質感知」(15H05917)、基盤研究 A(20H00614)、基盤研究 C(20K12022)、挑戦的研究(19K22881)及び特別研究員奨励費(20J12600)の助成を受けて実施されたものです。


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