News Release

低炭素社会の実現を目指し新たなフィルターを開発

二酸化炭素の分離・貯蔵(CCS)技術に革命を起こす

Peer-Reviewed Publication

Kyoto University

Emerging Technologies Addressing Performance and Cost Challenges in Carbon Capture and Storage

image: Researchers develop technology to greatly enhanced CCS capabilities, and potentially bring cost reductions to large-scale programs. view more 

Credit: iCeMS / Sivaniah Lab

紀元前2800年、ウルの都市国家が繫栄した頃、メソポタミアでは文明を一変させる大発見がなされました。銅と錫を混ぜて合金にすると、それまでに存在したどんな人工材料よりも、強く便利で価値の高い材料が生まれることを発見したのです。その合金は青銅と呼ばれ、のちに時代の名前として語り継がれるほど革命的なものでした。

それから4000年以上もの時を経た今、京都大学高等研究院物質—細胞統合システム拠点(iCeMS=アイセムス)、ロンドンインペリアルカレッジ、香港城市大学の研究者らは、英科学誌「Nature Energy」に投稿した学術論文の中で、メソポタミアと同様の手法を用いた革新的な材料の開発によって、21世紀の世界が抱える大きな課題を解決する方法を提唱します。二酸化炭素を分離・貯蔵するための新たな方法です。

混合マトリクス膜(MMMs)と呼ばれる高分子薄膜を用いた「フィルター」は、二酸化炭素の分離・貯蔵(CCS)技術に革命を起こす可能性を秘めています。この混合マトリクス膜の研究開発を率いたイーサン・シバニア(Easan Sivaniah)教授は、次のように語ります。「世界が抱える二酸化炭素の問題の深刻さは、容易に理解できる。世界最大の火力発電所は、1日にギザの大ピラミッド12杯分もの二酸化炭素を排出する。そして、500 MW級の巨大な火力発電所が、世界で5000基以上もあり、その数は今も増えている。分離・貯蔵されるべき温室効果ガスの量は計り知れない。」

同教授はまた、「既存の高分子膜を用いたガス分離技術は、この莫大な量の排出ガスを処理するには不向きであった。それは、ガスの処理速度が遅すぎるか、私たちの論文中でも述べたように、高処理速度のものはガスを分離する精度が低いために、エネルギー効率のよい二酸化炭素分離を行えなかったからだ。」と、大規模な二酸化炭素分離プロジェクトに応用するには、費用対効果の点で問題があったことに言及しました。

これは非常に難しい問題で、ケンブリッジ大学のデービド・レイナー氏は「CCS技術がブームとなっていた2005年から2009年にかけて、北アメリカやヨーロッパ、オーストラリアで実施された10億ドル規模のCCSプロジェクトの大半が、失敗に終わってしまっている。」と、2016年にNature Energyに投稿した学術論文の中で、言明しています。「単に未来の理想的なモデルとしてではなく、CCS技術が『死の谷』を抜け出して現実世界に貢献するには、経済的優位性を持つ技術の差別化を図っていかなければならない。」と、レイナー氏は結論付けています。

世界経済フォーラムのGlobal Agenda Council on Decarbonizing Energy(エネルギーの脱炭素化に関する国際協議会)による「低炭素化のための連立(CMC)」のプロジェクトリーダーであった増田達夫名古屋商科大学客員教授は、「シバニア教授が開発するCO2回収・貯留方法における高効率化・低コスト化の実現に向けた技術のような、大学発の高度な最先端技術は、検証、そして試験運用への展開をもっと加速させるべきである。このような技術的ブレークスルーが、今ほど必要とされる時期はないからである。」と訴えます。

「メソポタミア文明が新たな材料の必要性に迫られたと同様に、我々も革命的材料を必要としている。」とシバニア教授は語ります。さらに、「我々はガスの処理量や分離精度だけでなく、コスト面についても常に意識している。そこで我々は、日本屈指の化学者である北川進iCeMS拠点長によって開発されたMOFという素材に注目した。我々は、この革命的なナノサイズの粒子を、マンチェスター大学のピーター・バド教授とニール・マッケオウン教授が開発したPIM-1という世界最高性能を誇る高分子材料に適切な条件で添加することで、ガスの分離精度を大幅に向上した混合マトリクス膜を開発することに成功した。」と説明し、「この革新的な材料を開発するにあたって、環境省や科学技術振興機構の支援は不可欠なものであった。今後は、産官学一体となって行うプロジェクトの重要性が、一層高まるだろう。」と、各機関の垣根を越えた連携体制の整備の推進を唱えます。

また同教授は「我々がこのような優れた性能をもつ混合マトリクス膜を開発したことで、大規模なCCSプロジェクトにおける大幅なコスト削減への可能性が開けた。コストを十分の一にまで低減することも夢ではなく、今後、CCSプロジェクトが見直され政治的に受け入れられることになるかもしれない。」と今後の展開について語りました。

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