News Release

ゲノム編集技術を用いたヒトiPS細胞での正確な一塩基置換技術(MhAX法)を開発

遺伝子疾患の本態性解明・新薬開発・遺伝子治療などに広く応用可能な画期的成果

Peer-Reviewed Publication

Kyoto University

The MhAX Method

image: Stem cells with shared genetic information aid in the study of human disease. view more 

Credit: (Kyoto University / Knut Woltjen)

 遺伝子の一塩基置換はゲノム全体で1000万箇所以上あることが知られており、中にはアルツハイマー病や心臓疾患などとの関連が指摘されているものもあります。患者さん由来のiPS 細胞を利用したこれらの疾患モデル系の構築は疾患の原因解明や新規治療薬の開発への有用な手段として期待されています。しかしこうした一塩基置換による影響を厳密に評価するためには、置換が起こった箇所以外の全てのDNAが全く同じ配列であるものを比較する必要があります。

 

人工DNA切断酵素であるTALENやCRISPR-Cas9を用いたゲノム編集技術により、こうした一塩基置換を導入または修復する手法は、疾患モデルの作製や遺伝子治療に大きく貢献すると期待されている技術です。しかしながら正確に目的の一塩基が改変された細胞を効率的に得るためには、一度目印となる遺伝子を挿入したノックイン細胞を作製し、改変された細胞だけを選び出し、その後目印として導入した遺伝子を抜き取る操作が必要となります。従来法では、この遺伝子の除去の過程で複数の余分な塩基が残ったり、二次的なドナーDNAが必要となったりなど、正確性や効率の面で改善が必要とされていました。

 真核生物の細胞にはDNA二本鎖が切断された時に修復する機構が備わっており、特に10〜30塩基対ほどの短い相同配列(マイクロホモロジー)を認識して修復する機構は、マイクロホモロジー媒介末端結合(MMEJ)と呼ばれています。京都大学iPS細胞研究所Knut Woltjen准教授らの研究グループは、このMMEJを利用した新しい一塩基置換方法を開発しました。

 一旦挿入した遺伝子を抜き取る際に、マイクロホモロジーに依存した修復機構を利用し、修復後には、目的の一塩基置換と(遺伝子の機能に影響を及ぼさない)目印となる一塩基置換が導入されるように設計しました。本手法をMicrohomology-assisted excision(MhAX)法と名付けました。

 MhAX法を利用することにより、ヒトiPS細胞において、先天性プリン代謝異常症でみられるHPRT1遺伝子の一塩基多型(HPRTMunich)を再現することに成功しました。また、同じくプリン代謝疾患の原因変異の一つとして知られるAPRT遺伝子の一塩基多型(APRT*J)については、左右のマイクロホモロジー領域に正常型塩基と変異型塩基をそれぞれ配置することにより、修復細胞に正常型塩基と変異型塩基が確率的に生じるように工夫しました。その結果、正常型塩基を二つもつ細胞と、変異型塩基を二つもつ細胞、正常型塩基と変異型塩基を一つずつもつ細胞を、同時に樹立することに成功しました。これにより、同じ遺伝的背景を有しながら目的の一塩基多型のみが異なる細胞を並列に作製することが可能となり、厳密な対照実験に基づいて当該の一塩基多型と疾患との関連性を精査することのできる手法が確立されました。

 ヒトiPS細胞での一塩基置換の導入技術は、遺伝性疾患のモデル細胞の作製に役立てられ、疾患の本態性解明や医薬品開発に資することが期待されます。また、疾患患者由来の体細胞からiPS細胞を作製し、本技術を用いて疾患の原因変異を修復した後に、目的の細胞に分化させて自家移植を行うex vivoの遺伝子治療への応用も見込まれます。

 

また本技術は、ヒトiPS細胞以外の細胞株や生物個体にも適用できる可能性があり、今後これらの実施例が蓄積されることにより、基礎生物学研究や各種産業における利用価値が高まることが予想されます。  この研究成果は、2018年3月5日に、英国Nature Publishing Groupの科学雑誌『Nature Communications』にオンライン掲載されました(doi: 10.1038/s41467-018-03044-y)。

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