<詳細>
マイクロシステムを周囲環境に適応しながら動作させるには、複雑な制御システムが必要で、さらにそのサイズの縮小が望まれます。これらの複雑な制御システムの代替として、細胞を適用することが期待されています。細胞は小型な体内に多くの機能を統合し、周囲の環境に反応できることから、環境適応型のマイクロシステムの部品に使用できます。
特に、ツリガネムシ(Vorticella convallaria)は収縮伸張する柄(長さ約100μm)を持ち、自律型のリニアアクチュエータとして機能します。この柄と可動マイクロ構造(ハーネス)の組み合わせにより、自律型のマイクロシステムを形成できます。しかしながら、マイクロ流路内でのシステム構築には、細胞配置技術とハーネスの組立方法を確立し、なおかつ細胞を生きたままにする必要がありました。
そこで研究グループは、ツリガネムシを生きたまま組み込み、微生物融合システムを構築する手法を開発しました。複数の微生物を利用するには、マイクロ流路内の可動部品を並列的に構築することが求められます。まず微細加工技術を応用して、微小なハーネスをマイクロ流路中に並列的に配置しました。続けてツリガネムシの細胞を磁力により、選択的に配置しました。最終的にハーネスをツリガネムシに組み付けて、ツリガネムシの運動を用いてハーネスの動きを回転運動に変換することに成功しました。
<開発秘話>
微小ハーネスを微生物に利用するという概念は、マクロな発想からは単純に思えます。しかし、微細加工の専門家にとっても、微生物の動きに追従するハーネスを作ることは困難でした。ハーネスを生きた微生物に組み付けるには、有害な化学物質の使用を避ける必要があり、解決には学際的なアプローチが求められます。研究グループは微細加工に精通しており、なおかつ微生物学の分野でも研究を進めてきました。これらの蓄積があり、生体適合性を持たせたまま「マイクロ流路内でハーネスを作製し、なおかつ可動化する手法」を見つけました。
<今後の展望>
細胞膜の透過処理を行った後、ツリガネムシの柄は周囲のカルシウムイオン濃度の変化に反応するようになります。これにより周囲のカルシウムイオンに反応するバルブとして機能するようになります。また、ツリガネムシのカルシウムイオン応答アクチュエータは、自律型の流体バルブ、流量調整器やミキサーの構築につながり、さらに糖尿病用の自動インスリン注入ポンプのようなウェアラブルな環境応答型マイクロシステムの実現に貢献すると研究チームは考えています。
###
<論文情報>
Moeto Nagai, Kohei Tanizaki, Takayuki Shibata (2019). Batch Assembly of SU-8 Movable Components in Channel Under Mild Conditions for Dynamic Microsystems: Application to Biohybrid Systems, IEEE/ASME Journal of Microelectromechanical Systems 10.1109/JMEMS.2019.2907285.
本研究はJSPS科研費 (22810012 25820087) 、公益財団法人 荏原 畠山記念文化財団、一般財団法人イオン工学振興財団の助成を受けたものです。