キンカチョウの親鳥は、卵に呼び掛けることで孵化後のヒナが気候変動によってもたらされる温暖化に有利に備えるための適応機構を獲得する手助けをしている可能性がある。「抱卵期の鳴き声」と、胎児が外部の音を聞くことができる能力の組み合わせは複数の生物群の親が共通して使用するガイド手段の1つである。しかし、とりわけ急速に変化する環境におけるこのような行動と進化能力および生存能力との間の関連に関する研究は進んでおらず、このギャップを埋めるために今回Mylene M. MarietteとKatherine L. Buchananは抱卵期の鳴き声に注目して研究を行った。著者らは「これから生まれてくるヒナ鳥は抱卵期の鳴き声によって生後の新しい環境を予測している」と仮定した上で、自然に温度が変化する時期に屋外の飼育場内に巣作りした61羽のメスと61羽のオスの「野生由来」のキンカチョウの抱卵期の鳴き声を録音した。著者らの観察結果によると、キンカチョウの親鳥は抱卵期の最終段階で、尚且つ最高温度が26℃以上の場合にのみ卵に呼び掛けており、これはキンカチョウの親鳥が胎児の成長に合わせて環境状態に関する合図を送っていることを示唆している。
この呼び掛け行動が子孫の適合性に影響を与えるか否かを調べるために、MarietteとBuchananはキンカチョウの卵に録音した抱卵期の鳴き声を聞かせる「処置」をし、対照群の卵には「通常時」の親鳥の鳴き声を聞かせた。その結果、処置をした卵から孵化した直後のヒナの体重は対照群のヒナの体重よりも軽いことが判明した。体重の軽さは適合性の低さを示しているように思われがちだが、著者らは軽量であることは酸化によるダメージ(DNA、タンパク質および脂肪中の有害な不安定分子の蓄積)が少ないことと相関関係にある点を指摘し、結果的に体重の軽さは高温によるストレス下のキンカチョウの健康にとって有益に働く、と論じている。著者らがヒナの成長の観察を続けた結果、その予想と符合する形で「処置」をした体重が軽いキンカチョウは、最初の繁殖期間中により多くのヒナを育て上げたことがわかった。さらに、処置をしたオスは対照群のオスよりも温度が高い領域に巣作りすることを好んだため、抱卵期の鳴き声は世代を超えて習性を刺激し、次世代の子孫がより高温状態に適応するための周期が繰り返されている可能性がある、と著者らは言及している。MarietteとBuchananの研究は親鳥による適合のためのガイドの種類と温度の変動に対する世代間の適応を関連付けることで、地球温暖化が種の存続に与える影響を正確に判断する上で先導的役割を担っている。
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