News Release

引力相互作用は過冷却液体の構造を変える

Peer-Reviewed Publication

Institute of Industrial Science, The University of Tokyo

The Nature of Glass-Forming Liquids is More Clear

image: Researchers from The University of Tokyo revealed a key structural feature of glass-forming liquids that may help solve a decades-long physics debate view more 

Credit: Institute of Industrial Science, The University of Tokyo

東京大学 生産技術研究所の田中 肇 教授(研究当時、現:シニア協力員)、トン フア(Tong Hua)特任研究員(現:上海交通大学助教授)の研究グループは、液体を冷やしてガラス転移点に近づけると液体の粘性が急激に増大し、ガラス化する現象の物理的起源を探るべく研究を行った。この問題は凝縮系物理学の長年の謎であり、その起源について論争が続いてきた。大きな論争の種は、液体の構造が粘性の増大に重要な働きをしているか否かという点である。実験によると、粘性は大きく変化をするものの、X線散乱などの構造解析手法で解析すると、液体の構造はほとんど変化しないように見える。特に、液体を構成する粒子間に引力と斥力の作用が存在するLennard-Jonesポテンシャルと、その斥力部分だけを取り出したWCAポテンシャルで相互作用する2つの液体のシミュレーション結果を比べると、X線などで観察される構造は全く変わらないのに、ダイナミクス(粒子運動)の遅くなり方は2つの系で大きく異なることが報告され、ダイナミクスを決める上で構造が重要ではない証拠と考えられてきた。

今回、同グループが過去に導入した「局所的なパッキング能が高い粒子配置構造」を用いて2つの系の構造を比べたところ、実は構造が大きく異なることが明らかになり、引力相互作用が液体の構造を大きく変え、その結果、ダイナミクスにも多大な影響を与えていることを発見した。一方、従来、液体の構造の特定には、1つの粒子の周りの粒子の混み具合を中心粒子からのからの距離の関数として表した動径分布関数が用いられてきた。散乱実験で得られる情報もこれと全く等価な情報である。この情報は、粒子間の距離についての情報といえる。今回用いた局所的パッキング能は、中心粒子と隣接する2つの粒子が作る角度情報を反映している。距離は、2つの粒子だけで決まるが、角度を決めるには3つの粒子が必要である。つまり、今回の成果は、液体の構造を決めるには、従来の常識に反し2体相関では不十分であり、3体以上の多体相関が不可欠であることを示したといえる。実際、局所的パッキング能とダイナミクスの関係は、引力相互作用の有無にかかわらず2つの系で全く共通であることが示された。

本研究の成果は、液体の構造を記述するには角度情報が不可欠であること、さらには、長年の謎であったガラス転移に伴う粘性の増大が、液体の構造化にあることを示唆しており、液体の理解に大きなインパクトを与えるものと期待される。

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本成果は2020年6月2日(米国東部夏時間)に「Physical Review Letters」のオンライン速報版で公開される。


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