News Release

経口栄養が全身の健康に関わるメカニズムを解明

口腔内と腸内の細菌叢が鍵、摂食嚥下訓練による医療向上に期待

Peer-Reviewed Publication

Tokyo Medical and Dental University

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image: Assessment of changes in oral and gut microbiome view more 

Credit: Department of Gerodontology and Oral Rehabilitation, Department of Periodontology,TMDU

 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科歯周病分野の片桐さやか助教と高齢者歯科学分野の戸原玄准教授の研究グループは、経口摂取の重要性を細菌学的な観点から証明しました。この研究は文部科学省科学研究費補助金ならびに8020推進財団8020研究事業の支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、国際科学誌Frontiers in Cellular and Infection Microbiologyに、2019年12月20日午前0時(米国東部時間)にオンライン版で発表されました。

【研究の背景】  

脳卒中後に経口栄養が不可能になり、経管栄養※3とならざるを得ない患者さんは多くいます。経口栄養を再獲得させるために行うリハビリテーションに、摂食嚥下訓練があります。これにより、再び口から食事を摂取できるようになったという報告は多くあります。口腔と大腸は腸管を通じてつながっており、食物、だ液、口腔内細菌は嚥下によって腸管へと流入しているため、これらが腸内細菌叢の変化に影響を及ぼす可能性があります。しかしながら、経口栄養がどのように腸内細菌叢に影響しているかは、いまだ不明でした。そこで、本研究グループは経口栄養の再獲得と口腔内および腸内細菌叢との関連を、細菌学的に検討しました。

【研究成果の概要】

 脳卒中の亜急性期に経管栄養となり、その後、摂食嚥下訓練を受け経口摂取となった8名を対象に研究が行われました。唾液と便の採取を、摂食嚥下訓練前の経管栄養時および摂食嚥下訓練によって、経口栄養となった後に行いました。なお、この期間の患者さんの摂取カロリーは一定に保たれています。その後、次世代シークエンサー※4を用いて、口腔内および腸内細菌叢の細菌種の同定、細菌種間の相関関係、その細菌叢の予測される機能(機能遺伝子)を解析しました結果、経口栄養を再獲得することにより、口腔内および腸内細菌叢の多様性が増加し、細菌叢の組成が変化していることを見出しました。加えて、Carnobacteriaceae科とGranulicatella属の細菌量が経口食物摂取の再開後、口腔および腸内の両方で増加していました。また、細菌同士の相関関係を示したネットワーク構造も、経口栄養の再獲得後には口腔内および腸内ともに、ひとつのネットワークに、より多くの細菌が関わるように変化していました。機能予測解析の結果から、経管栄養時と比較して、経口栄養時により発現しうる代謝経路があることが明らかになりました。

【研究成果の意義】  

本研究グループは、摂食嚥下障害の患者さんに対する摂食嚥下訓練は、口から食べられるように機能を回復するだけではなく、口腔内と腸内の細菌叢の多様性を増加させ、微生物群集の組成およびその共起ネットワーク構造を変化することを見出しました。腸内細菌叢が様々な疾患に影響することは、すでに知られていますが、本研究は、経口栄養の再獲得が、全身の健康の維持にも重要であることを細菌学的な見地から示した発見であり、今後の医療戦略を考える上で意義のある成果といえます。

【用語解説】

※1 経口栄養  口から栄養摂取すること。

※2 摂食嚥下訓練

 摂食嚥下器官の運動性を高めるための機能訓練。

※3 経管栄養  

チューブやカテーテルなどを使い、胃や腸に必要な栄養を直接注入すること。

※4 次世代シークエンサー  

遺伝子配列を高速で読み出せる装置。

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