News Release

オートファジー細胞死を誘導する抗体-超分子結合体の設計

がん治療のための新規ナノ材料として応用に期待

Peer-Reviewed Publication

Tokyo Medical and Dental University

The conjugate of Trastuzumab and methylated β-cyclodextrin-threaded polyrotaxane for tumor targeting.

image: The conjugate of Trastuzumab, a monoclonal antibody against HER2 expressed in various malignant tumors, and methylated β-cyclodextrin-threaded polyrotaxane (Me-PRX) is designed for specific delivery of Me-PRX in HER2-expressing tumor cells. Because Me-PRX is known to induce endoplasmic reticulum stress-related autophagic cell death, Trastuzumab-Me-PRX conjugates are regarded as a new class of antibody-drug conjugates that would contribute to the chemotherapy of cancers through the induction of autophagic cell death. view more 

Credit: Department of Organic Biomaterials,TMDU

 東京医科歯科大学生体材料工学研究所有機生体材料学分野の西田慶博士(現九州大学)、田村篤志准教授、由井伸彦教授らの研究グループは、超分子ポリマーであるポリロタキサンがオートファジー細胞死を誘導することを報告してきましたが、がん細胞への選択性がないことや細胞内に取り込まれにくいことが、がん治療への応用における課題でした。本研究では、ポリロタキサンとがんを標的とする抗体を結合させた「抗体-超分子結合体」を世界に先駆けて設計し、これらの課題を克服することに成功しました。この研究は文部科学省科学研究費補助金の支援のもとに行われたもので、その成果は国際学会誌Journal of Materials Chemistry B(ジャーナル・オブ・マテリアルズ・ケミストリーB)に2020年6月23日にオンライン版で発表されました。

【研究の背景】

環状糖類であるシクロデキストリンの空洞部に高分子が貫通した超分子ポリマーであるポリロタキサンは、2016年ノーベル化学賞にも選出された分子マシンの代表例としてこれまで注目をされてきました。近年では、ポリロタキサンのユニークな構造に由来する物性を材料に応用する研究が進められており、医薬や生体材料としての応用も検討されています。研究グループでは、メチル化β-シクロデキストリン(Me-β-CD)を含有したポリロタキサン(Me-PRX)が細胞内で分解しMe-β-CDを放出することでオートファジー細胞死※1を誘導することを世界に先駆けて報告してきました(K. Nishida, A. Tamura, N. Yui. J. Control. Release 2018, 275, 20)。Me-PRXによるオートファジー細胞死は、他の細胞死であるアポトーシスへの抵抗性を獲得した細胞に対しても有効であり、がん治療への応用が期待されます。しかし、この手法はがん細胞への選択性がないことや細胞内に取り込まれにくいことが課題でした。

【研究成果の概要】

本研究では、がん細胞に対して積極的にMe-PRXをターゲティングし、選択的にMe-PRXによるオートファジー細胞死を誘導するための分子設計を目的に、Me-PRXにがん細胞に対する抗体を結合した抗体-超分子結合体を提唱しました(図1)。抗体-超分子結合体は、抗体によってがん細胞を認識し選択的に細胞内に取り込まれることが期待されます。抗体として、悪性腫瘍に高発現することが知られているHER2※2に対する抗体であるTrastuzumab (Herceptin)※3を選択し、Trastuzumab-Me-PRX結合体(Tras-Me-PRX)を合成しました。

Tras-Me-PRXの細胞内取り込み挙動を評価するため、HER2陽性細胞株としてBT-474細胞、HER2陰性細胞株としてHeLa細胞を使用し、蛍光標識Tras-Me-PRXを用いて蛍光顕微鏡(共焦点顕微鏡)観察を行いました(図2)。蛍光標識Tras-Me-PRXはBT-474細胞の表面や内部より蛍光が確認されたことより、細胞表面のHER2を認識して結合し、細胞に取り込まれていることが確認されました。一方、HER2認識能のないIgGを結合したIgG-Me-PRXやMe-PRX単体では細胞表面から蛍光は観察されませんでした。また、HeLa細胞においては、蛍光標識Tras-Me-PRXが細胞膜表面や内部から観察されませんでした。蛍光強度より蛍光標識Tras-Me-PRXの取り込み量を評価した結果、Me-PRX単体と比較して6~19倍取り込みが増加することが明らかになりました。Me-PRXに由来する細胞死を評価した結果、Tras-Me-PRXはMe-PRXと比較して半数致死濃度(IC50)が10~60分の1まで低下することを明らかにしました(図3)。これは、抗体により細胞内への取り込み効率が向上したためであると考えられます。以上の結果より、本研究で提唱した抗体-超分子結合体の概念は、がんの化学療法における新たなプラットフォームとしての応用が期待されます。

【研究成果の意義】

がんの化学療法において、多剤耐性やアポトーシス抵抗性などがん細胞の治療抵抗性獲得は抗癌剤の選択肢を制限する大きな課題ですが、非アポトーシス経路により細胞死を誘導する薬剤はがん化学療法における新たな選択肢として期待されています。オートファジー細胞死を誘導するポリロタキサンによるオートファジー細胞死は興味深い機能であるものの、その応用には様々な課題があります。本研究では、現在研究開発が精力的に行われてる抗体-薬物結合体(Antibody-drug conjugate; ADC)の設計概念を踏襲し、抗体-超分子結合体を設計し、その有効性を確認しました。今回設計した抗体-超分子結合体の機能に関しては今後も継続した評価が必要ですが、治療抵抗性を獲得したがん細胞の化学療法に対する新たな医薬形態の一つとして応用が期待されます。また、材料科学的な観点では、抗体-超分子結合体の設計やその有効性を示した研究は前例がなく、注目度の高い研究に位置づけられると考えられます。

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【用語解説】
※1オートファジー細胞死 ・・・・・ プログラム細胞死の一種であり、細胞死の過程でオートファジーの誘導が必要となる細胞死
※2 HER2 ・・・・・ human epidermal growth factor type 2の略語であり、ヒト上皮細胞増殖因子受容体と類似の構造を有する癌遺伝子として発見された。HER2は、細胞膜を貫通する受容体型糖タンパク質であり、乳がんや胃がんで高発現していることが知られている。
※3 Trastuzumab ・・・・・ 特定の分子を狙い撃ちする分子標的薬(抗体医薬)の一種であり、HER2タンパク質に特異的に結合することで抗腫瘍効果を発揮する抗がん剤。


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