News Release

科学と科学が出会う時

異分野の概念どうしが学際的に融合する過程を検証

Peer-Reviewed Publication

Kyoto University

The Dynamics of Agent-Based Complex Systems in Citations

video: This is the genesis and evolution of the science of agent-based complex systems seen from the perspective of its citation network from 1990 to January 2016. view more 

Credit: Kyoto University / Chris Vincenot

京都大学大学院情報学研究科のChristian E Vincenot助教は、一見ばらばらに見える学術上の概念が融合して、普遍的な概念となる過程を解析しました。その結果、概念の融合は、時としてたった数個の単語あるいは論文が鍵となって起きることが明らかになりました。

学際的な研究ほど、科学の発展を後押しするものはありません。異なる分野の概念が結合することで、それまで知られていなかった論点や方法論が生まれ、イノベーションに拍車がかかります。しかし、分野と分野の間に横たわる壁が、そのような発展を抑えこみ、鍵となる語彙あるいは概念の理解を妨げています。

本研究では、こうした概念が融合する過程を解析するため、ABM(Agent Based Modeling)とIBM(Individual Based Modeling)というふたつのモデリング概念を比較しました。ABMはコンピューター科学でしばしば用いられ、一方IBMは主に環境学での応用が進んでいます。

このふたつのモデリング概念は、結局は同じ原理の上に成り立っています。いずれも各個体のふるまいをモデリングして大規模な個体群へと拡張することで、複雑系を理解しようとするものです。

Vincenot助教は「数年前に、環境学者とコンピューター科学者が参加する学際的な会合で、私の研究内容を発表したことがあります。私がABMとIBMを同じ意味で扱いはじめると、参加者は混乱したようでした。彼らはABMとIBMが似ていることを知らなかったので、このふたつのモデリング概念が同じものだと聞いて驚いたのでしょう」と話します。

ここで次のような問いが生まれます──ふたつの概念は、どのようにして異なる学術分野で別々に進化し、やがてひとつの普遍的な基礎概念へと収束していったのでしょうか?

この疑問を解決するために、本研究はまず、ふたつの用語(ABMとIBM)を使った論文中の引用を分析する新しい手法を開発し、その変化を長期間にわたって追跡しました。ひとつひとつの論文を図上に配置し、それぞれの論文について、文中で引用している論文と接続しました。次に、同じ論文を引用している論文どうしが近づくように設定しました。

当初、ABMとIBMはつながることはなく、それぞれの学術領域のなかで孤立していました。しかし、時間が経つにつれて文献どうしが結合しはじめ、2015年に1万2000件の論文が現れるころには、明らかにふたつの用語が融合している状態を観察することができました。

「もっとも驚いたのは、ABMとIBMが融合するのに必要だった文献が数点にすぎなかったことです」と、Vincenot助教は話します。「すべての文献の中で鍵となっていたのは、わずか6点の論文でした。しかも、この6点の論文は必ずしももっとも引用された論文というわけではなかったのです。」

本研究は、このような融合を引き起こすには3つの要素が必要になるという仮説を立てました。すなわち、異なる分野の研究者が課題に気づくこと、共通の言語・専門用語・ソフトウェアが開発されること、そしてもっとも重要なのが、より統一された理論が開発されることです。

「気づきとコミュニケーションがあれば、学際的な研究を推進するには十分ですが、究極的にはそれだけでは自立した科学を打ち立てるには不十分です。私たちには、科学が自律的に持続して発展するための枠組みとして機能するような、より超越した理論が必要なのです。基本的には、私たちは現存する研究成果を解釈して、それを新たな理論を再帰的に生み出すための積み木として使わなくてはならないのです」と、Vincenot助教は語ります。

本研究は今後、ABMとIBM以外の学術上の概念と用語を使って、今回の仮説を確認する予定です。幸い本研究で開発した方法論は適用しやすいものなので、あとは単に新しいアイデアが見つかるかどうかの問題です。

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本研究成果「How new concepts become universal scientific approaches: insights from citation network analysis of agent-based complex systems science」は、2018年3月7日に英国の国際学術誌「Proceedings of the Royal Society B」にオンライン掲載されました(Doi: 10.1098/rspb.2017.2360)。


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