image: Created from public open data by Ministry of the Environment pollen observation system "Hanako-san". The in-phase matrix visualized the annual changes of phase-synchronizations across the Japanese islands. view more
Credit: Kenshi Sakai, TUAT
アレルギー性鼻炎(花粉症)は世界中で問題となっています.日本では戦後の大規模造林によって国土の約20%をスギ林とヒノキ林が占めているため,人口の約17%(2,000万人以上)がスギ花粉等によるアレルギー性鼻炎(花粉症)に罹患しています.花粉症対策にはタイムリーかつ正確な花粉予測が不可欠となります.一方,樹木の種子生産や花粉生産には豊凶の複雑な同期現象が知られています.しかし,花粉散布量の正確な予測に重要な花粉飛散量の空間同期パターンについて,これまで明らかにされていませんでした.
今月のScientific reports誌に掲載された研究では,環境省の花粉観測システム”はなこさん”の公開データを利用して,14年間,120箇所の花粉分布の年間変動を調査しています.図のように花粉量は120地点で大きく変動していますが,地区内の同期強度や観測地点間の同期強度などについてはこのままでは判別できません.図上部には,A(北海道)からH(九州)に分布する120計測地点のすべての組み合わせにおいて,花粉量の増減を可視化しています.黄色は同相(2地点の花粉量の増減方向が同じ),青色は逆相(2地点間の花粉量の増減方向が逆)と呼びます.2009年から2010年では全面に黄色で,120地点全で完全な同相同期となっています.北海道旭川市と鹿児島鹿屋市の測定地点間距離は1,613kmであり,このような超長距離相関が確認されたことは驚くべきことです.逆に,2015年から2016年では,隣接地点間ですら逆相が多く見られ,ほぼ完全な脱同期状態となっています.これらの結果は,日本列島もしくはそれより広域の環境変動を示唆しています.さらに,非線形物理の分野で注目されている同期理論やネットワーク理論の立場からも,今後注目される自然現象といえます.
著者らは,「今回開発された手法は,花粉飛散量予測の改善だけではなく,様々な同期現象に広く適用できる手法であり,果樹の隔年結果予測,ドングリの豊凶予測,野生動物被害予測,また,広域の環境変動の可視化など,数理科学分野との連携によるオープンデータサイエンスとしての展開を目指す」としています.
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本研究成果は,Scientific Reports(8月7日付)に掲載されました.
論文名:Dispersal of allergenic pollen from Cryptomeria japonica and Chamaecyparis obtuse: characteristic annual fluctuation patterns caused by intermittent phase synchronisations
URL:https://www.nature.com/articles/s41598-019-47870-6
DOI: 10.1038/s41598-019-47870-6
https://www.tuat.ac.jp/outline/disclosure/pressrelease/2019/20190819_02.html
Journal
Scientific Reports