News Release

海洋性アナモックス細菌を用いた窒素汚染土壌の処理

Peer-Reviewed Publication

Kumamoto University

各堆積物サンプルにおける微生物群(属レベル)組成

image: 各沈殿物サンプル中で合計1%を超えて存在する微生物コロニーの属レベル分類。SB-Cサンプルの下層に硫黄酸化細菌(SOB)であるMarinicellaが、また、SB-AMXサンプルの全層に硫黄還元細菌(SRB)であるDesulfococcusDesulfosarcinaが豊富に存在している。これは、SOBがアナモックス細菌と協力して沈殿物サンプル中の過剰窒素を減少させているためと考えられる。 [Reprinted from Chemosphere, 196, Van Duc, L., Song, B., Ito, H., Hama, T., Otani, M., & Kawagoshi, Y., High growth potential and nitrogen removal performance of marine anammox bacteria in shrimp-aquaculture sediment, 69-77, 2018, with permission from Elsevier.] view more 

Credit: Dr. Yasunori Kawagoshi

沿岸域の水環境における富栄養化対策として、過剰な窒素負荷による汽水域や沿岸の汚染土壌を浄化することを目的として、有用な細菌群の適用可能性が見いだされました。熊本大学と米国バージニア海洋科学研究所(VIMS)との共同研究による成果です。

海岸や河岸、湖岸などの沿岸環境における過剰な栄養素による水の富栄養化は、世界中の多くの沿岸地域にとって大きな問題となっています。農業排水などによって沿岸水域に流入した過剰な栄養分は、水底に沈着し、生態系バランスが崩れるなど水生環境に有害な影響を及ぼします。人と水生動物の両方に有害な赤潮やアオコといった現象は、この富栄養化の影響によるものです。富栄養化は世界中の沿岸域で増加しているため、解決方法が強く求められています。

そこで、これまで様々な窒素除去(脱窒)技術が研究者らによって開発されてきました。フラッシング法(洗浄法)は、深いところにある堆積物まで到達できないため、汚染物質の除去にはあまり効果がありません。また、フラッシングによって他の場所に移動された堆積物が、新しい場所で新たに環境汚染を引き起こす可能性があります。また、循環式による脱窒処理は汚染物質除去効率が高くありません。一方、絶対嫌気性かつ独立栄養性のアナモックス細菌による嫌気性アンモニア酸化(アナモックス)は、現場で行うことができる費用効果の高い脱窒方法ですが、その有効性や他の微生物との相互作用は不明でした。そこで、熊本大学とVIMSが共同研究でこのアナモックス細菌による脱窒効果や他の細菌との相互作用を調査しました。

研究者らは、日本南部のエビ養殖池から堆積物を採取し、非改質サンプル(SB-C)と、海洋性アナモックス細菌(MAB)の培養物を接種したサンプル(SB-AMX)を用いて、両者の窒素除去能を比較しました。堆積物のサンプルは285日間にわたって4つの段階で経過観察されました。研究の結果、アナモックス細菌が増殖するためには重炭酸塩の添加が重要であることが分かりました。

また、他の細菌との相互関係を明らかにするために、堆積物サンプル中の微生物叢を評価しました。その結果、2つのサンプル間の微生物群が非常に異なることが分かりました。非改質サンプルの底部には比較的多量の硫黄酸化細菌(SOB)が認められ、一方、アナモックス細菌サンプルでは硫酸塩還元細菌(SRB)が多く検出されました。SRBはアナモックス細菌にとって有毒な化合物を産生するため、両方のサンプルの脱窒能を低下させる原因となっていると考えられます。一方、SOBはアナモックス細菌に有毒な硫黄化合物を除去するため、アナモックス細菌にとっては有益な細菌といえます。SOBは重炭酸塩の添加によって増殖や活性が促される可能性のあることが他の研究者らの研究で報告されていることから、本研究でも重炭酸塩の添加による効果を検討しました。

研究を主導した熊本大学の川越保徳教授は次のようにコメントしています。

「私たちの研究でも、重炭酸塩を添加することで、SOBとアナモックス細菌との間に相乗効果が生じる可能性が示されました。このアナモックス細菌による脱窒技術を自然界に適用するには、まだまだ多くの研究が必要です。しかしながら、高濃度の窒素が負荷された土壌を浄化する技術は富栄養化が生じている水域で引き起こされる被害を軽減するのに、非常に効果の高い方法だと考えています。」

本研究成果は科学雑誌「Chemosphere」に2017年12月28日掲載されました。

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[Reference]

Van Duc, L., Song, B., Ito, H., Hama, T., Otani, M., & Kawagoshi, Y. (2018). High growth potential and nitrogen removal performance of marine anammox bacteria in shrimp-aquaculture sediment. Chemosphere, 196, 69 - 77. doi:10.1016/j.chemosphere.2017.12.159


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