熊本大学の研究グループは、測りたいものに浸すだけ、または1滴垂らすだけで「どこでも、すぐ」食品の抗酸化能を測定できるシステムを開発しました。これは水と油が絡み合うように混在した液体である「両連続相マイクロエマルション(BME)」をゲル化し、シート型電極と一体化させた新しい電気化学システムです。分析室の外でどこでも誰でも簡単に、すぐ測れる本システムは、生産や製造、販売現場での品質管理や、食品の付加価値向上に活用が期待されます。
体内に取り込まれた酸素の一部は、反応性の高い活性酸素に変化しますが、活性酸素の過剰な生成は、動脈硬化・がん・老化・免疫機能の低下などを引き起こします。こうした活性酸素の発生やその働きを抑制したり、活性酸素そのものを取り除いたりする物質のことを抗酸化物質と呼び、特にビタミン類やポリフェノールなど、水ではなく油に溶けやすい脂溶性抗酸化物質が注目されています。健康に配慮した食生活が重要視される中、食品中の抗酸化能の評価は重要です。従来の抗酸化能評価法では、複雑な分離・抽出・比色法による分析作業が必要であり、色や濁りを持った食品や脂溶性抗酸化物質の測定が困難でした。
そこで熊本大学の國武教授の研究グループは、抗酸化能をどこでも簡単に測定できる新しい電気化学システムを開発しました。本来混じり合わない水と油が絡み合うように混在した液体である「両連続相マイクロエマルション(BME)」をゲル状にして、シート型電極と一体化させることで達成されました。
通常、電気化学測定をするには、サンプルを溶かした電解質溶液を用意して、その中に3本の電極(作用極、参照極、対極)を差し込んで測る必要があります。しかし本システムでは、電極の上に貼ったゲル膜自身に電解質溶液としての機能があるため、電解質溶液を新たに用意する必要はありません。また、電解質に溶かせない油性の物質も、分離抽出することなく、そのままの状態で分析することができます。本システムの電極を測りたいサンプルに浸漬するか、電極にサンプルを1滴垂らすだけで、大がかりな装置も特別な処理も必要ありません。これまで分析室で行われていた複雑な作業が必要なく、簡単にサンプルの抗酸化能の評価を行うことが可能になりました。実際に、本システムを用いて、市販のオリーブオイル中のビタミンE測定に成功しました。
研究を主導した國武雅司教授は次のようにコメントしています。
「今後は測定対象を肉や魚、野菜、果物、チョコレート、化粧品などに広げ、生産・製造現場や販売店での評価、品質管理に活用が期待されます。食品の分析が生産者や消費者でも実施可能な身近なものになれば、食品の付加価値をアピールできたり、生産、栽培の最適条件を探す手がかりや、美味しく安全に食べられる判断基準の一つとなったりする可能性もあり、本システムの開発が社会の食と健康に貢献することを期待しています。」
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本研究成果は,Analytical Chemistryのオンライン版に令和2年9月18日 (日本時間) に掲載されました。
Source:
Hashimoto, H., Goto, K., Sakata, K., Watanabe, S., Kamata, T., Kato, D., ... Kunitake, M. (2020). Stand-Alone Semi-Solid-State Electrochemical Systems Based on Bicontinuous Microemulsion Gel Films. Analytical Chemistry, 92(20), 14031�14037.
doi:10.1021/acs.analchem.0c02948
Journal
Analytical Chemistry