News Release

球形コロイド粒子の回転運動に迫る

Peer-Reviewed Publication

Institute of Industrial Science, The University of Tokyo

Particles with 'eyes' allow a closer look at rotational dynamics

image: Researchers from The University of Tokyo Institute of Industrial Science report colloidal spheres that can be used to determine the rotational dynamics of dense suspensions view more 

Credit: Institute of Industrial Science, the University of Tokyo

田中 肇 東京大学名誉教授(研究当時:生産技術研究所 教授/現在:同研究所 シニア協力員;先端科学技術研究センター シニアプログラムアドバイザー(特任研究員))、オックスフォード大学のデューレン ルール 教授、柳島 大輝 研究員(研究当時、現:京都大学 大学院理学研究科 助教)、リュー ヤンヤン 大学院生の共同研究グループは、これまで直接観察が困難であった球形コロイド粒子の回転運動の測定に挑戦すべく研究を行った。コロイド分散系は、粒子の大きさが原子などに比べはるかに大きいため、構造やダイナミクスの素過程に直接アクセス可能であるという大きな特徴をもつ。そのため一粒子レベル分解能を持つ共焦点顕微鏡による実時間3次元観察は、結晶化、ゲル化、ガラス化といった基本的な非平衡相転移現象の解明に大きく貢献してきた。これまでこのような研究は、主に蛍光標識された球形コロイド粒子の重心の並進運動を捕捉することにより行われてきた。しかしながら、球形のコロイドの場合、その球対称性のため、このような方法では回転運動を観察することは困難であり、コロイドの回転ダイナミクスに関する理解は大きく遅れていた。

この困難を克服すべく、同グループは蛍光標識された球形のコロイドの中に、別の色で蛍光標識された球形ドットを偏芯させた状態で作成した。この操作を全粒子に対し均一に行う方法を開発するとともに、コロイド粒子全体の重心と球形ドットの重心を結ぶベクトルの運動として、重心まわりの回転運動を検知する解析アルゴリズムを開発することで、高密度のコロイド分散系の多数の粒子の回転運動を一粒子レベルで正確に捕捉することにはじめて成功した。

コロイド粒子は溶液中の多数の分子との衝突の時間的な揺らぎを反映して、ブラウン運動することが知られている。コロイド分散系の並進ブラウン運動については膨大な研究があるが、回転ブラウン運動も、密度の高い懸濁液においては局所的な流体力学的および摩擦的環境の影響を強く受けることが知られている。流体力学的な相互作用は、ソフトマター、生物系などにおける自己組織化プロセスに重要な役割を演じることが知られており、回転する粒子間の流体力学的相互作用が独特の力学的挙動を引き起こすことがある。さらに最近の研究では、コロイドの接触摩擦がレオロジー現象、特に流動下で不連続的に粘性が急上昇するシア・シックニング現象において重要な役割を演じることが指摘されているが、これまではコロイド分散系における回転摩擦を研究する実験的手段がなかった。

同グループは、独自に合成したコロイド粒子と新たな回転解析法により、荷電コロイドが自発的に形成した結晶において、結晶格子上に存在するコロイド粒子の回転運動が隣接した格子点のコロイドの回転運動と流体力学的な相互作用を介して動的に結合していることを明らかにした。また、密度の高い剛体球の結晶では、局所的な結晶的な秩序が高い場所にある粒子ほど、回転しやすいことや、隣の粒子との接触によりあまり動けなくなった粒子が、接触摩擦によりスティック・スリップ的な回転運動をすることを発見した。これらの発見はこれまでほとんど解明されていなかった、高密度微粒子中の球状粒子の局所的な回転運動の理解に新たな光を当てるものである。

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本成果は2021年6月14日(米国東部夏時間)に「Physical Review X」のオンライン速報版で公開された。


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