News Release

1匹の雌マウスから100個の卵子を排卵させることに成功!

Peer-Reviewed Publication

Kumamoto University

Viable Offspring from a Single Female Knockout Mouse

image: Ultra-superovulation makes it possible to analyze gene function more efficiently through the mass production of knockout mice. view more 

Credit: Professor Naomi Nakagata

このニュースリリースには、英語で提供されています。

現在、遺伝子破壊マウス(ノックアウトマウス)※1のバックグラウンドであるC57BL/6系統マウスにおいて、通常の過剰排卵誘起で得られる卵子数は平均20個前後であり、排卵数が10個以下であるケースもしばしばです。排卵数が少ないということは研究効率化の妨げとなっているだけでなく、採卵はマウスを安楽死させて行うため、多数の雌を犠牲にしなければならないことも、動物の愛護・福祉の観点からきわめて大きな問題となっていました。

そこで、今回、私たちは超過剰排卵誘起法を開発し、1匹の雌マウスから100個の卵子を排卵させることに成功しました。

これらの卵子は、体外受精-胚移植により正常な2細胞期胚※2(図1)および産子(図2)へ発生することも確認されており、今後のノックアウトマウスの大量作出に極めて有用な技術となり得るものと期待されています。

この超過剰排卵誘起法は、ナショナルバイオリソースプロジェクト 基盤技術整備プログラムの支援により、生命資源研究・支援センター 動物資源開発研究部門(CARD)・資源開発分野の中潟直己教授、竹尾 透講師らのグループが開発したものであり、その成果は5月 29 日に PLOS ONE に発表されました。

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論文著者・タイトル
Takeo Toru, Naomi Nakagata:
Superovulation using the combined administration of inhibin antiserum and equine chorionic gonadotropin increases the number of ovulated oocytes in C57BL/6 female mice

掲載雑誌
PLOS ONE
May 29, 2015 DOI: 10.1371/journal.pone.0128330

ISTT blog (International Society for Transgenic Technologies BLOG)

(説明)

 近年、ヒト遺伝子は2万数千程度であることが明らかになりました。その全遺伝子の機能を解析するために、世界中で個々の遺伝子を破壊したノックアウトマウスを網羅的に作製し、それらマウスの基礎的表現型(実際に現れる遺伝的な性質)の解析が精力的に行われています。そのために遺伝子改変マウスの作製・収集・保存・提供の効率化が必要とされています。 しかしながら、ノックアウトマウスを迅速、大量かつ効率的に作製するためには、体外受精-胚移植技術の確立が必須であり、1匹の雌から多数の卵子を排卵させる超過剰排卵誘起法の開発が望まれていました。

  • 従来の過剰排卵誘起法

マウスにおける従来の過剰排卵誘起法は、妊馬血清性腺刺激ホルモン(PMSG:卵胞刺激ホルモン(FSH※3様ホルモン))を投与することで、多数の卵胞を発育させるものですが、1匹の雌マウスから得られる排卵数は、多くても30個が限度でした。

  • 新規開発した超過剰排卵誘起法の原理と方法
 
インヒビンは発育卵胞中から放出されるホルモンで、下垂体(ホルモンを分泌する内分泌器官)から分泌されるFSHの分泌量調節因子として、排卵数を制限するため、PMSGの単独投与では限られた排卵数しか得られませんでした。そこで、抗インヒビン血清を用いて雌の体内のインヒビンを中和することでFSHの分泌を過剰に促進し、同時にPMSGを投与することで多数の卵胞を発育させることにより、1匹から100個以上(従来法の3~4倍)の卵子を排卵させることに成功しました(超過剰排卵誘起法)(図3)。

  • 利用効果

(1)使用動物数の軽減  
卵子採取に用いる雌の数を1/3~1/4以下に減らすことが可能です。実験動物の使用匹数の削減は、実験動物の愛護・福祉の重要な柱の一つです。ライフサイエンス研究という観点からのみならず、実験動物の愛護・福祉に対する社会的配慮と言う観点からも極めて意義深いもので、国際的に高い評価を得る様々な研究の推進に寄与することができます。

(2)遺伝子改変マウスの作製・収集・保存・提供の効率化
少数の雌マウスから大量の卵子を排卵させることで、体外受精や胚移植が容易になります。よって、遺伝子改変マウスの収集・保存・提供の効率化を図ることが可能となります。

(3)他の動物種への応用
超過剰排卵誘起法が未だ確立されていないラット、ハムスター、モルモットなどへの応用の可能性が極めて高く、その利用範囲がさらに広がるものと思われます。

  • 今後の展開
    現在、特許申請中であり(特願2015-032354)、本排卵誘発剤を企業から発売予定です。

  • 用語の説明

※1 ノックアウトマウス(Knock-out mouse)
遺伝子操作により1つ以上の遺伝子を欠損させたマウス。遺伝子の塩基配列は決定しているものの、その遺伝子産物の機能が不明な場合にその機能を推定するための重要なモデル動物。

※2 2細胞期胚:
卵が分裂して2個の細胞になった状態。受精卵は発生の過程で2個、4個と分割を繰り返して成長する。

※3 FSH
卵巣に存在する卵胞を刺激して、発育を促す働きを持つホルモン。


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