News Release

成長期の咬合負荷低下が、咀嚼運動の発達を阻害する

小児期における軟食の摂取が口腔機能の発育に与える影響

Peer-Reviewed Publication

Tokyo Medical and Dental University

Consequences of low occlusal loading on mastication

image: Low occlusal loading in malocclusion elicits neuroplastic changes in CMA and causes maladaptation of neuromuscular behavior in masticatory movements. Inset: A typical example of electromyographic activity with jaw movement patterns elicited by electrical stimulation of the anterior part of the cortical masticatory area in an 11-week-old experimental animal. view more 

Credit: Department of Orthodontic Science,TMDU

 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科・咬合機能矯正学分野の小野卓史教授、加藤千帆特任助教およびPhyo Thura Aung大学院生(ミャンマー留学生)らの研究グループは、成長期における軟食の摂取が大脳皮質咀嚼野刺激による神経筋活動の成熟を障害し、咀嚼運動の発達に影響を与えることをつきとめました。この研究は文部科学省科学研究費補助金の支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、国際科学誌Scientific Reportsに、2021年3月30日にオンライン版で発表されました。

【研究の背景】  

現代では、口腔機能発達の重要な要素である食生活の合理化や簡素化が急速に進み、軟食化を助長しやすい食環境になっていると指摘されています。軟食化は、咀嚼回数の減少や咀嚼能力低下といった咬合負荷低下の環境を作りやすくなり、若年者の口腔機能発達障害を誘発しやすくなっています。食事した際に生じる「硬い」、「柔らかい」といった食感に関する情報は、口腔内の受容器で受け取られた後に、大脳皮質体性感覚野※1に伝達され、食感として認識されています。軟食化した食物摂取ではよく噛むことができず、咬合力が様々な器官に負荷されなくなり、特に成長期における顎顔面領域の形態や機能の成長発育に影響を与えることが報告されています。しかし、成長期における食物の軟食化による咬合負荷低下に関しては、末梢感覚器官(歯根膜や顎関節の受容器)や効果器(筋肉)に対する影響は報告されていましたが、咬合負荷低下に伴う顎運動障害の詳しいメカニズムの解明を行った基礎研究は国内外を問わず、非常に少ない状況でした。  

一方、咀嚼運動は咀囎筋・顎関節・舌・頬などの器官の協調した活動により遂行され、食物の多彩な性状に対応して調節されるものです。この協調運動の調節に必要となる大脳皮質からの下行性出力と感覚受容器からの上行性入力の統合は、中枢神経系で行われています。しかし、軟食摂取に伴う咀嚼運動の中枢性制御機構に対する影響は解明されていませんでした。

 そこで本研究は、小児期の軟食化による咬合負荷低下が成長期における中枢性咀嚼運動の成長障害の原因となるのかを解明するために、咀嚼学習が活発である離乳期からの期間を対象として、中枢性咀嚼運動への影響を電気生理学的に詳しく解析しました。

【研究成果の概要】  

研究グループは、小児期における軟食化の食餌を再現した粉末飼料飼育ラット(咬合負荷低下モデル)を使用し、離乳期からの期間を対象として、大脳皮質咀嚼野※2微小電気刺激により誘発される中枢性咀嚼運動への影響を詳しく解析しました。その結果、咬合負荷低下モデルの中枢性咀嚼運動において、水平・垂直的顎運動量が、通常飼料で飼育したラット(正常モデル)に比べて有意に減少することが判明しました。

 また、中枢性咀嚼運動時の筋の発火活動において、咬合負荷低下モデルでは正常モデルと比較し、潜時(筋発火までの時間)が有意に延長し、活動電位※3振幅が有意に減少しました。

 加えて、パワースペクトル解析にて平均および中間周波数が有意に低下していることが認められました。  以上の結果から、成長期における咬合負荷低下が、皮質咀嚼野誘発性顎運動を指標とした咀嚼運動の中枢性制御機構の発達遅延を生じるという興味深い結果を得ました。

【研究成果の意義】  

離乳期以降に口腔機能が正しく発達することは、その後の健康につながります。成長期に適切な機能獲得が行われないと正常な顎顔面領域の成長発育が得られず、将来的には摂食・嚥下障害のリスクが高くなることが予想されます。これらの予防を行うことは、ひいては高齢者におけるオーラルフレイル※4の予防や健康寿命の延伸につながり、社会的にたいへん意義のあることです。  本研究で得られた成果は、食物の軟食化による咬合負荷低下に伴う顎顔面成長障害の新たな病態機構を示すとともに、発症リスクの根拠を明示することにより、成長期におけるいわゆる「食育」の意義を啓発するものです。

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【用語解説】

※1大脳皮質体性感覚野・・・・・・・・触覚や痛覚などの末梢からの感覚情報が伝達されてくる大脳皮質の一領域のこと。

※2大脳皮質咀嚼野・・・・・・・・電気刺激によって咀嚼運動に似たリズミカルな顎運動を起こすことができる大脳皮質の一領域のこと。

※3活動電位・・・・・・・・筋が収縮する際に発生する電位のこと。

※4オーラルフレイル・・・・・・・・口腔機能の低下であり、全身の衰えのひとつと考えられている。


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