News Release

早生まれが青年期の自殺リスクを増加させることを初めて明らかに

Peer-Reviewed Publication

Osaka University

The Rate of Suicide by the Date of Birth

image: The rate of suicide is plotted against the date of birth. The red line denotes the school entry cutoff date (i.e., Aprils 2nd) in Japan. The gray thick line represents a locally weighted regression line fitted separately before and after the cutoff date. The data include individuals aged between 15 and 25 at the time of death that occurred between 1989 and 2010. Source: Birth records (1974â€�1985) and death records (1989â€�2010), the Vital Statistics of Japan. view more 

Credit: Osaka University

このニュースリリースには、英語で提供されています。

本研究成果のポイント

  • 4月2日前後に生まれた若者の自殺率を比較したところ、早生まれの若者の自殺率が約30%高いことが判明

  • 早生まれの影響が就学時だけではなく、学齢期を越えて長期に続くことを初めて明らかにしたもの
  • 現行の就学年齢規定の見直しや早生まれの生徒への対策の必要性を示唆。今後の子育て・教育政策を検討する上で社会的意義が大きい成果

概要

大阪大学大学院国際公共政策研究科の松林哲也准教授と米国・シラキュース大学の上田路子リサーチアシスタントプロフェッサーは、4月2日及びその直後に生まれ、学年内で相対的に年齢が高い若者の自殺率と比較して、4月2日直前に生まれた(つまり早生まれの)若者の自殺率が約30%高いことを明らかにしました。就学時の年齢の違いが学業やスポーツの成績などに影響を与える可能性はたびたび報告されてきましたが、本研究はその影響が青年期の健康状態や自殺リスクにまで及ぶこと、そして早生まれの影響、学齢期(義務教育期)を越え長期にわたり続くことを厳密な手法を用いて初めて明らかにしたものです。

今回の分析結果は、早生まれの子どもへの対策を教育現場において行う必要性も示唆しており、少子高齢化時代を迎えた日本における子育て・教育政策を考える上で社会的意義が大きい成果だといえます。

本研究成果は、2015年8月26日に米国科学誌「PLOS ONE」のオンライン版に掲載されました。

研究の背景

早生まれの子どもは同学年の他の生子ども比較して身体的・精神的発達が相対的に遅いため、学業やスポーツの分野で不利な立場に置かれることはこれまでたびたび報告されてきました。また、自殺は現代日本を特徴づける深刻な社会的問題であり、その防止策の構築に向けて自殺原因の解明は喫緊の課題です。

本研究では、『早生まれの者は年齢が低いため学業やスポーツの分野で不利な立場に置かれる傾向が強く、この影響が青年期における自殺リスクの上昇として顕在化する』という仮説を立て、早生まれと自殺の関係性を、仮説をもとに統計手法を用いて分析しました。具体的には、学校教育法の学齢期を定める規定に注目し、子どもの学年内での相対的年齢が青年期における自殺リスクにどのような影響を与えるかを調べました。

4月生まれの子ども(4月1日生まれを除く)と翌年の3月生まれの子どもは同学年に属しますが、後者は相対的に年齢が低いため学業やスポーツの分野で不利な立場に置かれる傾向が強いです。研究グループでは、この影響が、青年期における自殺リスクの上昇として顕在化するという仮説を立てました。

分析と結果

日本の教育制度では一学年は4月2日生まれから翌年の4月1日生まれの子どもまでで構成されます。そこで、本研究グループは、日本の教育制度上、一学年が4月2日生まれから翌年の4月1日生まれの子どもで構成されることを用い、4月2日前後に生まれた15歳から25歳の若者の自殺率を比較しました。

仮説の検証には厚生労働省の人口動態調査を用いました。1974年から1985年にかけて生まれた人々のなかで、15歳から25歳の間に自殺で死亡した日本人を調査の対象として、死亡者の生年月日別に自殺死亡率を算出しました。その結果、自殺死亡率の平均は0.126%であり、これは調査対象の期間中に生まれた計2000万人のうち0.126%(約25000人)の人々が自殺で亡くなったことを意味します。

非連続回帰デザイン※ という統計手法を用いて分析した結果、学年内で一番年上となる4月2日以降に生まれた若者の自殺率よりも4月1日以前に生まれた若者の自殺率は高いことが明らかになりました。例えば、4月2日の前後7日間に生まれた人々を比較すると、4月2日以降7日間に生まれたグループと比較して、4月1日以前7日間に生まれたグループの自殺率は約30%高い。4月2日前後28日間に生まれた人々を比較する場合、グループ間の差は小さくなるものの、4月1日以前生まれの若者の自殺率のほうが4月2日以降生まれよりも高い。つまり、学齢期に他の子どもより相対的に年齢が低かった若者の自殺リスクは高い傾向にあります。

就学時の年齢の違いが学業やスポーツの成績などに影響を与える可能性は先行研究によって指摘されてきましたが、本研究はその影響が青年期の健康状態や自殺リスクにまで及ぶこと、そして早生まれの影響は学齢期を越え長期にわたって続くことを示しています。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果は、早生まれの影響が従来想定されていたより長期に渡り、若者の健康状態をも左右することを厳密な手法を用いて明らかにした初めての研究です。現行の就学年齢規定の見直しや早生まれの子どもへの対策の必要性を示唆しており、今後の子育て・教育政策を考えていく上で社会的意義が大きいと考えます。

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特記事項

本研究成果は2015年8月26日に米国科学誌「PLOS ONE」のオンライン版に掲載されました。

論文タイトル:" Relative Age in School and Suicide among Young Individuals in Japan: A Regression Discontinuity Approach"
著者:松林哲也、上田路子
DOI番号: 10.1371/journal.pone.0135349
URL: http://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0135349

用語解説

※ 非連続回帰デザイン
連続変数の値が特定のしきい値(カットオフ)の近辺に位置する個体群のデータを利用して、しきい値の少し上や下にほぼ無作為に割り振られた個体群の特性を比較する統計的手法。


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