多くの病気に対して、タンパク質をベースとした薬物が処方されます。しかしながら、これらの薬物はその分子サイズが原因で、効果的な投与方法が注射しかないため、患者にとって少なからず負担となっています。さらに、こうしたタイプの薬剤の多くは、関節リウマチの場合のように、一つの薬剤投与に数時間かかるような治療を複数組み合わせて行う必要があります。こうした負担や経済的な負担を軽減するような新しいドラッグデリバリーシステムの開発が求められていました。
よりよいドラッグデリバリーシステムを開発するため、熊本大学の研究者らは皮膚を通したタンパク質デリバリーシステムに着目しました。現在はこうした経皮薬物デリバリーシステムとしてマイクロニードルやイオントフォレシス(電流による経皮薬物デリバリー)など様々なシステムが研究されていますが、熊本大学の研究者らはフォトサーマルアブレーション法を開発しました。この技術は、皮膚の最外層である角質層を加熱し、除去することにより、皮膚の透過性を向上させるものです。 難しいのは、より深い皮膚層を傷つけることなく角質層だけに影響を及ぼすことです。
研究者らは、透明ゲルパッチ、金ナノロッド、そして、近赤外光を組合せることで、経皮薬物送達のための独自のフォトアブレーションシステムをつくりました。蛍光標識したオボルブミンをパッチに添加し、マウスの皮膚に貼り、近赤外光を照射した後、タンパク質の皮内への浸透性を調べました。金ナノロッドを含んだゲルパッチ、金ナノロッドを含まないゲルパッチ(対照群1)、金ナノロッドを含んだゲルパッチ(ただし、光照射しない)(対照群2)を用いて、in vitro(試験管内)およびin vivo(動物内)での実験を行いました。2つの対照群の皮膚において、発熱は認められませんでしたが、金ナノロッド入りパッチを光照射した場合は、皮膚表面の温度は約43℃まで上昇しました。また、in vitroでの実験では、顕著なタンパク質の浸透が、in vivoの実験ではある程度の浸透が認められました。これらの結果の違いは、in vitroでの実験において、凍結した皮膚を使用し、細胞のパッキングが緩んでいたことが原因ではないかと考えています。
研究を主導した新留 琢郎教授は次のようにコメントしています。「私たちの実験で、金ナノロッドを近赤外光照射することによるフォトサーマル効果が皮膚を加熱し、薬剤の透過性を向上させることが明らかになりました。まだ実際のタンパク質性薬物を送達するところまでには至っていませんが、本研究が効果的な経皮デリバリーシステムの開発に貢献するものと確信しています。」
本研究成果はエルゼビア社の科学雑誌「European Journal of Pharmaceutics and Biopharmaceutics」に掲載されました。
###
[Reference]
Haine, A. T.; Koga, Y.; Hashimoto, Y.; Higashi, T.; Motoyama, K.; Arima, H. & Niidome, T., Enhancement of transdermal protein delivery by photothermal effect of gold nanorods coated on polysaccharide-based hydrogel, European Journal of Pharmaceutics and Biopharmaceutics, Elsevier BV, 2017, 119, 91-95. DOI: 10.1016/j.ejpb.2017.06.005
Journal
European Journal of Pharmaceutics and Biopharmaceutics