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学習メカニズムを照らしだす包括的モデル

Peer-Reviewed Publication

Okinawa Institute of Science and Technology (OIST) Graduate University

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image: エリック・デ・シュッター教授とアンドリュー・ガリモア博士が、小脳の学習における分子機構を計算モデル化。 view more 

Credit: OIST

私たちが学習と呼ぶプロセスは、オーケストラの素晴らしい演奏による交響曲のように、何千もの分子レベルでの反応が合わさったものです。しかしながら分子反応における正確な相互作用のほとんどは、不明のままです。この度、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究者らは 、感覚入力を受信し、随意運動を調整する小脳における学習の分子機構の計算モデルを構築しました。

「本モデルは、これまでに報告されている中でも、我々が知る限り、最も複雑な計算モデルです。」と 、Cell Reports 誌に発表した論文上席著者である、OIST計算脳科学ユニットのエリック・デ・シュター教授は述べています。以前の計算モデルでは、 ニューロンの受信側に 到達する信号に着目していました。「今や私たちは、ニューロンにおける信号の送信側と受信側の両者間で進行中のやり取りを観察できるのです」 と、同教授は説明します。

学習とは、ある意味ニューロン間の信号伝達の強弱の調節機能をもつ分子ダイアルを介したバランスと考えられます。すなわち2つのニューロン結合が強化された長期増強(LTP)と、 2つのニューロン結合が弱まった長期抑圧(LTD)との間のバランスです。両プロセスとも 、2つのニューロン間の接合部であるシナプスで生じます。本論文の筆頭著者であるOISTポスドクのアンドリュー・ガリモア博士は、運動学習において平行繊維とプルキンエ細胞というふたつのタイプの細胞を用いて、LTPとLTDの計算モデル構築をしました。

複雑なシステムのモデルを作成 するコンピュータプログラムを使用し、ガリモア博士は活性化したニューロンにおける実験から得た何百もの計算式を統合させました。そして韓国の共同研究者らから提供を受けた、マウスの小脳のニューロンの活動記録と比較し、これらの記録を計算モデル内に取り込みました。

その結果、シナプス両側の分子ネットワークが、学習をコントロールするために重要であることを示していることが明らかになりました。すなわち神経活動において、LTDが生成されるかLTPが生成されるかを制御するため、シナプス先端の両側から双方向でのコミュニケーションが行われる必要があるということです。

本モデルではまた、LTPとLTDのバランスを保つための分子ダイアルにおいて、何らかの誘引でトリガーされると自動のオフスイッチが作動し、学習システムは休止状態に戻ることが明らかになりました。過去に報告された研究でもこのオフスイッチの存在は示唆されていましたが、タンパク質および受容体の複雑なネットワークといった背景メカニズムの存在が実証されたのは初めてです。このような大規模で包括的なモデルにより、これまでの実験系の研究論文にはあまり見られなかった、複雑な信号システムがどのように連携作用するかの検証が可能になったとデ・シュター教授は説明します。

本研究により、学習をコントロールする分子の複雑系による混沌とした挙動をより正確に予測できるようになりました。 また、学習行動に影響をおよぼす、脳の損傷や神経変性疾患で、 脳のスイッチが壊れてしまった際 、分子レベルで起こっていることを知るためのヒントになるでしょう。

「脳の全機能は、シナプス結合の強度に基づいているのです。これらのプロセスを理解すればするほど、脳における深刻な問題を緩和するために介入できる可能性が高まるのです。」 とガリモア博士は期待を込めて語ります。

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