News Release

細胞の分解機構「シャペロン介在性オートファジー」の活性低下が小脳性運動障害に繋がる

遺伝性の難病「脊髄小脳失調症」の克服へ前進

Peer-Reviewed Publication

Kumamoto University

小脳神経細胞においてのみCMA活性を低下させたマウス

image: 細い棒の上を歩行させる運動機能試験による通常マウス(○)とCMA活性低下マウス(●)の運動機能評価。後肢の踏み外しの割合が高く、また歩行距離が短いほど運動機能が低下していることを示している。 view more 

Credit: Associate Professor Takahiro Seki

熊本大学の研究グループは、細胞内タンパク質分解機構の一つであるシャペロン介在性オートファジー(CMA)の活性を小脳の神経細胞でのみ低下させたマウスの作製に成功しました。このマウスは進行性の運動障害や小脳神経の変性が引き起こされることが明らかになりました。脊髄小脳失調症の原因タンパク質を発現させることでもCMA活性低下が観察されることから、CMAが根本的治療法のない脊髄小脳失調症の新たな治療標的となることが期待されます。

脊髄小脳失調症はいくつかの遺伝子が原因で発症する遺伝性の難治性神経疾患であり、小脳の萎縮や神経障害によってふらつきが起きる、呂律が回らなくなるなどの症状を示します。原因遺伝子の違いにより48の型に分類されます。脊髄小脳失調症において小脳萎縮や運動失調に繋がる小脳の神経変性が起こるメカニズムは未だ解明されておらず、根本的な治療法は存在しません。

生物の細胞には、タンパク質などの細胞内の成分を分解するオートファジーという機構が備わっており、不要なタンパク質を分解したり病原微生物を排除したりすることで、生体の恒常性を維持しています。シャペロン介在性オートファジー(CMA)は、Hsc70という分子シャペロンとLAMP2Aというリソソーム膜上のタンパク質の働きを介して、細胞内の成分をリソソームに運搬し、リソソームでの分解に導きます。近年、CMAが神経細胞のタンパク質恒常性維持に関与し、CMA活性低下がパーキンソン病の発症に関与するという報告がなされ、パーキンソン病を含む神経変性疾患とCMAとの関連が注目を集めています。

熊本大学の研究グループは、細胞内でのCMA活性を評価する方法を独自に開発し、神経変性疾患発症とCMA活性との関連を検討してきました。その一環として、脊髄小脳失調症の原因となる数種類のタンパク質を発現させた細胞でCMA活性の低下が観察されることを見出しました。これらの知見から、脊髄小脳失調症発症にCMA活性低下が共通に関与するのではないかと想定した研究を今回新たに行いました。

本研究では、LAMP2Aを消失させる遺伝子を神経細胞だけに導入可能なアデノ随伴ウイルスベクターをマウス小脳に投与することで、小脳神経細胞においてのみCMA活性を低下させたマウスの作製に成功しました。また、このマウスの運動機能を評価したところ、進行性の運動機能障害を示すことが明らかとなりました。さらに、マウス小脳の組織的解析を行った結果、運動機能障害が見られ始めた段階では小脳神経の形態や小脳構造に影響は見られませんでしたが、アストロサイトやミクログリアなどの脳内のグリア細胞の活性化が観察されました。また、運動機能障害がかなり悪化した段階ではグリア細胞の活性化に加え、小脳神経の脱落とそれに伴う小脳皮質の萎縮が観察されました。

小脳神経細胞のCMA活性を低下させたマウスで観察された「進行性の運動障害」、「神経細胞の脱落とそれに伴う小脳皮質の萎縮」は脊髄小脳失調症患者でも観察される所見と一致しています。それに加え「早期のグリア細胞活性化」は様々な脊髄小脳失調症モデルマウスでも観察されています。脊髄小脳失調症の原因タンパク質によりCMA活性が低下するという知見と併せて考えると、本研究結果は小脳神経細胞でのCMA活性低下が脊髄小脳失調症発症の共通の分子機序の一つであるということを強く示唆するものです。

本研究を主導した関貴弘准教授は次のようにコメントしています。

「本研究結果から、CMAが脊髄小脳失調症の新規治療標的となり、未だ確立されてない根本治療法の開発に繋がることが期待されます。脊髄小脳失調症は遺伝子診断により原因遺伝子保有の有無が判定可能です。しかし、現状では原因遺伝子の保有が確認されたとしても、発症を予防する方法は存在しておりません。CMAを活性化し、なおかつ安全性の高い化合物が同定されれば、脊髄小脳失調症治療薬としての応用だけでなく、予防薬としても大いに有効ではないかと期待されます。」

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本研究成果は、学術雑誌誌「Neuropathology and Applied Neurobiology」に令和2年7月28日に掲載されました。

Source:

Sato, M., Ohta, T., Morikawa, Y., Konno, A., Hirai, H., Kurauchi, Y., � Seki, T. (2020). Ataxic phenotype and neurodegeneration are triggered by the impairment of chaperone‐mediated autophagy in cerebellar neurons. Neuropathology and Applied Neurobiology. doi:10.1111/nan.12649


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